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研究活動

研究プロジェクト

日米市民社会の比較研究

計画書

研究代表者
(所属)
辻中 豊(筑波大学 人文社会系 教授)
研究関係者
(所属)
ロバート・ペッカネン(ワシントン大学)
研究期間 2014年4月~2015年3月
研究概要

 日米のより深い政治の相互理解のためには市民社会レベルの理解が不可欠である。社会で活動する様々な集団(社会集団)は、個人と社会を媒介する機能を担っている。社会集団の活動空間は市民社会と呼ばれる。市民社会の構造は、市場や家族だけでなく、国家(政治社会)の様態によって規定されている。そのため、市民社会構造を解明することは、政治社会構造を解明することにつながる。しかし、経験的な調査データを用いた市民社会の比較研究は、世界的に見て端緒についたばかりである。
 筑波大学に拠点を置くJIGS(Japan Interest Group Study)研究チームは、現在までに15 か国における市民社会の調査研究を行ってきた。その一環として、日本では1997年と2006-7年にサーベイ調査を実施し、『現代日本の市民社会・利益団体』(木鐸社、2002年)、『現代社会集団の政治機能』(木鐸社、2010年)等を刊行した。また、全国規模で活動する675 の主要団体へのインタビュー調査や地球環境政策ネットワーク調査を実施してきた(http://cajs.tsukuba.ac.jp/2013/03/23-24.html)。米国では1999 年と2009-10 年にサーベイ調査を実施し、英文学術書『Nonprofits and Advocacy』をJohns Hopkins University Press から刊行した。本年度はこれまでの研究成果をもとに、両国の共通点、相違点を探る。具体的には、日米両国の研究書の内容を比較検討したうえで、両国のデータを用いて団体の政治行動、ロビイング等について比較分析し、JIGS が調査を実施した15 か国のうち、特に中国やインド・ドイツ・韓国の市民社会に関するデータをもとにした比較分析も視野に入れ研究を進める。

報告書

研究代表者
(所属)
辻中 豊(筑波大学 人文社会系 教授)
研究関係者
(所属)
ロバート・ペッカネン(ワシントン大学)
研究期間 2014年4月~2015年3月
実績概要

 これまで市民社会と政治システムに関して、日米、もしくは日本と西洋先進国の比較では、日本の特殊性が論じられやすかったが、視野を広げて枠組みをより普遍的なものにして、日米を世界の比較枠組みの中でとらえようとして、この間、学術研究活動を行った。Pekkanen, Robert J., Yutaka Tsujinaka and Hidehiro Yamamoto, (2014) Neighborhood Associations and Local Governance in Japan, Nissan Institute/ Routledge Japanese Studies, 255 pages.が日本の市民社会のうち、自治会を中心として分析結果をまとめた。またPekkanen, Robert J., Steven Rathgeb Smith, and Yutaka Tsujinaka, eds. (2014). Nonprofits & Advocacy: Engaging Community and Government in an Era of Retrenchment. The Johns Hopkins University Press, 303 pages.がアメリカの非営利組織のアドボカシー活動を中心に分析した。
 辻中豊・李景鵬・小嶋華津子編『現代中国の市民社会・利益団体―比較のなかの中国:北京市、浙江省、黒竜江省調査(2001-2011)に基づく実証分析』(木鐸社、2014年)は、現代中国の市民社会のうち、調査が可能な公的(に認められた)市民社会組織(社団、基金会、民弁非企業単位)に対する2次にわたる調査を、日米を含む多国間比較や、日韓との比較の文脈において分析した世界初の学術書である。同様の文脈で、バングラデシュについては、F. Quadir and Y. Tsujinaka eds. Civil Society in Bangladesh, Ashgate Publishing Ltd, 2015、ウズベキスタンについては、T. Dadabaev, M. Ismailov, Y. Tsujinaka, Civil Society and Governance in Central Asia, PALGRAVE MACMILLAN, 2015として現在印刷中である。

活動内容・
研究成果

Tsujinaka, Yutaka. (2014). “Civil Society and Politics in Japan, A Fifteen-Country Comparison: Why should Japan be Compared?” University of Ljubljana & University of Tsukuba Joint Research Forum: New Developments in Japanese Studies Brought Forth by Research Cooperation, Ljubljana, Slovenia, August 31. Key note speech.
Tsujinaka, Yutaka. (2014). “Neighborhood association in contemporary Japan.” Peking University, Workshop at the Center for Civil Society Studies, Peking, China, August 12.
Tsujinaka, Yutaka. (2014). “Well-being Through Group Life: Political Parties, Social Groups, and Voter Satisfaction in Japan.” International Workshop: Improving the People's Lot? Different Conceptions of Well-being between Promises and Reality, German Institute for Japanese Studies, Tokyo, July 29.
Tsujinaka, Yutaka.Yoshiaki Kubo, Takafumi Ohtomo.(2015). “Association Politics in Times of Political Change in Japan: Evaluating Successive Administrations by Major Association Leaders,” Paper Presented at the Annual Meeting of the Association for Asian Studies, Chicago, March 27, 2015.

Policy Paper

研究代表者
(所属)
辻中 豊(筑波大学 人文社会系 教授)
研究関係者
(所属)
ロバート・ペッカネン(ワシントン大学)
研究期間 2014年4月~2015年3月
タイトル 西洋的バイアスを超えた市民社会研究の必要性

1.はじめに

代表者は、ガバナンスと市民社会の問題を約30年間にわたり取り組んできた。当初、日米の市民社会や利益集団を中心に、理論的、経験的研究から始め、日本で初めて『利益集団』(東京大学出版会、1988年)という名称をもつ学術書を上梓した。しかし、日本の政治社会の問題を位置づけ検討するのに、日米という枠組みだけでは十分ではないと考え、1990年代からはアジアや欧州を含めた比較にも関心を向けてきた。

アジアの市民社会について、実証的なデータがほぼ皆無であった時期から、体系的に調査研究を行い、これまでに世界15か国63,000件の団体データ(質問紙法調査票、1997-2014)を収集した。そこには日米独韓中国というほぼ10年おきに2回以上の実態調査を行った国から、時期的には1回(多種類調査含む)ではあるがロシア、ポーランド、エストニアといった旧社会主義国、トルコ、バングラデシュ、ウズベキスタンといったイスラム圏のアジア諸国やインド、フィリピン、タイといった南・東南アジア諸国、南米のブラジルまでが含まれる。

 

2.政治体制の民主化論からローカルガバナンス論へ

当初の関心は、Alagppa (Muthiah Alagappa ed. Civil Society and Political Change in Asia, 2004)同様、政治体制と市民社会の関係であったが、調査の過程で、成長するアジアにおいて、住民の福利(well-being)を向上させること、そのために地方政治行政単位と市民、市民社会との協働が必要だという認識が体制を超えて広がっていることを痛感した。権威主義ウズベキスタンから社会主義中国、クーデター下のタイを含め、これは共通である。パートナーとなった各国チームとの協働過程で実感された点である。アジアに焦点をおく比較実証研究では、民主化そのものでなく、まずはローカルガバナンスという概念が理論的にも実践的にも有効である。選択的ではあるが、日本の経験や日本型の市民社会・ガバナンスモデルの導入も大いに歓迎されている。

とりわけ「コミュニティ市民社会組織」(自治会など近隣住民団体)のガバナンスに与える意義は、社会団体、NPO以上の地域影響力ゆえに注目され、代表者は、自治会の視角から『現代日本の自治会・町内会』(R・ペッカネン,山本英弘と共著、木鐸社,2009年)、自治体(市区町村)の視角から,『ローカル・ガバナンス』(伊藤との共編著、木鐸社2010年)を公刊するなかで、コミュニティ市民社会組織こそが、アジアのローカルガバナンス理解の鍵として国際的な検証課題であると認識した。

他方、アジア分析において、バングラデシュの日本等との比較分析(Tsujinaka, Yutaka, Shakil Ahmed and Yohei Kobashi. (2013). “Constructing Co-governance between Government and Civil Society: An Institutional Approach to Collaboration,” Public Organization Review December 13 (4): pp. 411-426)等を行う過程で、調査結果では表面的には日本と類似した回答を示すバングラデシュ市民社会組織の行動が、実際には有効な政策に反映されていない理由の一つが、ローカルガバナンスの未成熟であると結論した。2013-14年に実査したタイ、チェンマイ市調査や協力組織である北京大学が2014年に実施した通州区調査(北京市)でもローカルガバナンスの問題があるとの強い印象を得た。

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図1 経済発展と政治的自由度

 

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図2 政策の実施・阻止経験と主観的影響力(首都)

 

3.政治的近代化論で解けないパズル

さて、こうした研究の新視角の学術的意義をより具体的に2つの図と2つのパズルを用いて考えてみたい。図1を見てみよう。中国とロシアは、経済成長(一人当たりGDP上昇)が市民社会の発展と政治的民主化の進展(フリーダムハウスなど政治・社会自由度測定)に、近代化論や多元主義が主張したようには直線的に結びついていない。しかし、もっと一人当たりGDPが低い国々(南・東南アジア)は、民主主義を謳歌している(?)ように見える。なぜだろうか。

図2は政策の実施・阻止経験と主観的影響力の関係(私たちのデータベースに基づく)である。つまり、各国市民社会組織調査で、政策の実施や阻止に成功した団体の割合と自らの団体の関連領域での影響力の自己評価(平均点)の散布図である。いくつかの国では、両者は相関しているように見えるのに対して、ほとんどのアジアの国では、自己評価は高いが、政策成功等の経験は極めて低い。なぜだろうか。(ここの例は分かりやすいので示したが、厳密な分析は研究書で行っている。)

こうしたパズル問題を解くには5つのポイントがあると考えている。

1)国家全体のガバナンスを分析するのでなく、ローカルガバナンスに着目し、地域単位で分析する、

2)近代化論や多元主義が前提とする、結社的な機能的市民社会組織(結社団体、NGO、社会運動体)だけでなく、自生的な、伝統的なコミュニティ市民社会組織にも注目する、

3)市民社会組織のアドボカシー機能だけでなく、自治的で公共的なサービスを担う機能にも着目する。

4)政府(国家)と市民社会組織(社会)の対抗だけでなく、地方政府と市民社会組織両者の協働の側面にも注目する、

5)異なるタイプの市民社会組織間の関係にも注目する、この5点である。

急成長し、プレゼンスを拡大するアジア主要諸国のローカルガバナンスを、立体的4次元(地方政府等政府機関、機能的市民社会組織、コニュニティ市民社会組織、市民)の調査によって比較実証分析し、特有のパタンを提示することは、比較政治分析の新しい方法実践である。世界政治学へ大きなパラダイムチェンジを迫る、実証的な発見をもたらす確率が高い。また理論的にも、機能的市民社会組織の利益表出やアドボカシーの民主化への意義を強調してきたR. Dahl (1961)Who governs? 以来の多元主義的な分析前提を覆し、S. P. Huntington(1991)のThe Third Wave をこえるアジア発の政治発展論を提出できる可能性がある。

 

どうして、このような点がこれまでの研究に欠けていたのだろうか。そこには根強い西洋バイアスの存在がある。

4.西洋バイアスの克服と普遍的理論構築

西洋バイアスには、2つの側面がある。

1)1つは、非西洋社会の事例を観察対象に含めないことで一般化に向けた推論やモデリングを誤るという方法論的側面である。2)もう1つは、非西洋社会を考察する際に現地の価値判断を必ずしも尊重(重視)せず、西洋的価値観から社会を見渡すという観察者の価値的な態度である。

こうした方法的バイアスと価値バイアスの結果、西洋社会ないし工業先進国の事例から考案された帰納的理論は必ずしも普遍性を持たず、また演繹的理論についても同様に、理論モデルが非西洋社会には通用しないといった問題が生じうる。さらに、西洋バイアスは、非西洋社会の様々な指標に対する測定誤差をより大きくする可能性があるだろう。

現代の政治文化研究を創始したとされるAlmond and VerbaのThe Civic Culture (1963)は、体系的な比較分析を実施したことでその後の政治学に大きなインパクトを与えたが、それでも英米(Anglo-American)バイアスがあるという批判は免れなかった。この点を踏まえると、西洋バイアスの克服は、既存の議論を補正し、より公正で一般的な理論を構築するうえでは必須に近い作業となっている。

加えて、3)政策処方箋の提示という観点からいえば、実際上の問題として西洋バイアスはある種の危険性を伴う。たとえば、昨今のISIS (イスラム国)等の台頭やテロリズムの背景には、英米的価値観の押しつけ(=作用、との受け止め、認識)に対する反作用があるといえる。それを踏まえると、福利・福祉の増進や経済発展を目指す非西洋世界への政策処方箋は、既存の西洋バイアスにもとづく解決策が提示された場合、限界がある。

現在の筆者の力点は、日米を対照軸としつつも、「アジアにおけるローカルガバナンスの比較実証研究」にある。アジア主要諸国と対比対象国において、ローカルガバナンスに関連する4次元のアクター(地方政府・議会等政府機関、機能的市民社会組織=利益団体、社会団体およびその他の運動体、コミュニティ市民社会組織=自治会等、そして市民)に面接・サーベイ調査を行い、各国のローカルガバナンスの特徴を比較実証的に明らかにすることを目指している。そのメカニズムの理解の上に、西洋的バイアスを超えた、各国において自生的で可能性の高いローカルガバナンス向上政策への示唆を導きたいと思っている。

ところが、既存の多くの研究では、西洋バイアスは、次のように含まれている。

1)方法論的バイアスとして、①多くの既存研究では、アジア諸国でのローカルガバナンスを扱っていない、②扱っている場合も、市民社会関連アクターとして、機能的市民社会組織=利益団体、社会団体およびその他の運動体が中心であり、自生的なコミュニティ市民社会組織=居民委員会、班常会Panchayati raj、mahalla、chumchon yoi nai khet tessaban等)は扱わないか軽視される、という明確な傾向がある。

この背景には、2)価値的バイアスもからんでいる。価値的な個人主義バイアスもあって、Association,やsociety、NGO、そしてそれらのアドボカシー活動に注目するも、community, religion, tribeなどに基礎をおく自生的なコミュニティ集団を軽視、無視する傾向、またそれらが行う自治的な社会公共サービス活動の軽視につながる。

こうした西洋バイアスは、先に触れた政治的近代化(政治発展)論という理論的背景があり、経済的な近代化(工業化)が、社会的近代化(個人主義的で機能的な組織による市民社会化)、そして政治的な近代化(自由民主主義化)という因果論理の仮説がある。この枠組みにあう社会や事例、組織、機能だけが注目されて、他の要素は軽視、無視されてきたのである。

現実には、非西洋の諸地域では、こうした仮説の妥当性が疑われてきており、早急に比較実証的検討の上に理論化が必要とされている。その際の実証的ポイントの一つが、アジアだけでなく西洋以外にヨーロッパ、南・東欧州、中南米、アフリカに広範に存在する自生的なコミュニティ市民社会組織である。またこの要素を踏まえた、地域政府と市民社会組織の、社会公共サービスの提供における協働の側面である。

無論、このポイントだけでなく、政治体制、宗教などの文化、社会関係資本などの要素でも、既存研究に西洋的なバイアスは存在するため、本研究は、それらの克服によって、より普遍的なローカルガバナンスの比較分析と理論化を行う。西洋的な方法要素を決して無視するのでなく、そこにない要素を補完し、拡張しようとする。私たちの研究チームはこれまでに西洋発の実証研究を十分踏まえており、これまでもまたこれからも、米独を含めた対象と研究構成を有している。

結果として筆者は、非西洋理論(アジア特殊論)を構築しようとするものではなく、より普遍的な比較実証研究によって、より普遍的な市民社会とガバナンスの理論構築を目指すものである。

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