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研究活動

研究プロジェクト

世界の食料安全保障を支える植物科学研究

計画書

研究代表者
(所属)
江面 浩(筑波大学生命環境系・教授)
研究関係者
(所属)
有泉亨(筑波大学・准教授)、ジョスリン・ローズ(コーネル大学・教授)、ジェームズ・ジョバノ-ニ(USDA/コーネル大学・教授)
研究期間 2015年7月~2016年3月
研究概要

 食料安全保障の確立は世界規模の課題である。世界全体でみると大きな人口増加が予想され、それに伴って食料生産増が喫緊の課題である。現在の我が国の食料自給率は40%であり、今後50%まで増加する目標を掲げている。我が国では、急激な少子高齢化が進行する環境で50%の食料自給力を達成するとともに国外から安定的に残り50%の食料を確保することが重要課題となっている。米国は、食料輸出国として世界の食料需要に貢献してきているが、世界の人口増加に伴い、今後、一層、大きな貢献が期待される。
 本プロジェクトでは、日米両国で現在実施している食料増産に関するプロジェクト研究を文献調査等により総括し、世界の食料安全保障の確立に必要な植物研究の重点分野を明確にする。これらの調査研究の結果明らかになった研究分野・課題について、政府機関等に提言するとともに、シーズとなる研究を国際共同研究として、既存のプロジェクトの枠組みを使って、立案・提案する。

報告書

研究代表者
(所属)
江面 浩(筑波大学生命環境系・教授)
研究関係者
(所属)
有泉亨(筑波大学・准教授)、ジョスリン・ローズ(コーネル大学・教授)、ジェームズ・ジョバノ-ニ(USDA/コーネル大学・教授)
研究期間 2015年7月~2016年3月
実績概要

食料安全保障の確立は世界規模の課題である。世界全体でみると大きな人口増加が予想され、それに伴って食料生産増が喫緊の課題である。現在の我が国の食料自給率は40%であり、今後50%まで増加する目標を掲げている。我が国では、急激な少子高齢化が進行する環境で50%の食料自給力を達成するとともに国外から安定的に残り50%の食料を確保することが重要課題となっている。米国は、食料輸出国として世界の食料需要に貢献してきているが、世界の人口増加に伴い、今後、一層、大きな貢献が期待される。

本年度は、日米両国で現在実施している食料増産に関するプロジェクト研究について文献調査等を行った。その成果を年度末(2016年2月)にワシントンDCで開催したワークショップに持ち寄り、参加者とともに、世界の食料安全保障の確立に必要な植物研究の重点分野を検討した。また、筑波大学、コーネル大学メンバーが中核となって本テーマに関する国際研究ネットワークを形成するために、国際研究ネット−枠形成事業への申請を行った。また、各々が食料安全保障を支える植物科学研究を推進した。

活動内容・
研究成果

活動内容(具体的な行事(開催地、対象者)、研究成果(シンポジウム、論文)など)
[2015年]
8月:調査研究に関する具体案検討(メールなどで意見交換)
9月:日本学術振興会研究拠点形成事業に共同申請(研究課題名:果実のin-silicoデザイン研究拠点形成、申請者:筑波大学、コーネル大学、フランス国立農業研究所ボルドー研究センター、国立大湾大学)
9-12月:調査(必要に応じてメール、TV会議などで情報交換)
[2016年]
2月24日:ワークショップ(ワシントンDC、プロジェクトメンバー及び一般参加者)

[研究成果]
Shinozaki Y, Hao S, Kojima M, Sakakibara H, Ozeki-Iida Y, Zheng Y, Fei Z, Zhong S, Giovannoni JJ, Rose JK, Okabe Y, Heta Y, Ezura H, Ariizumi T.(2015) Ethylene suppresses tomato (Solanum lycopersicum) fruit set through modification of gibberellin metabolism. Plant J. 83(2):237-251.
Mubarok S, Okabe Y, Fukuda N, Ariizumi T, Ezura H.(2015) Potential use of a weak ethylene receptor mutant, Sletr1-2, as breeding material to extend fruit shelf life of tomato. J Agric Food Chem. 63(36):7995-8007.
Shinozaki Y, Ezura H, Ariizumi T.(2016) The role of ethylene in the regulation of ovary senescence and fruit set in tomato (Solanum lycopersicum).Plant Signal Behav.(In press) DOI:10.1080/15592324.2016.1146844

関連イベント
のURL

http://www.us-jpri.org/week/feb2016#event3

Policy Paper

研究代表者
(所属)
江面 浩(筑波大学生命環境系・教授)
研究関係者
(所属)
有泉亨(筑波大学・准教授)、ジョスリン・ローズ(コーネル大学・教授)、ジェームズ・ジョバノ-ニ(USDA/コーネル大学・教授)
研究期間 2015年7月~2016年3月
タイトル 食料安全保障に貢献する食料ロスを低減する研究の推進

人々が健康な生活を送るために必要な食料を持続的に供給可能とする食料安全保障の確立は、世界的に喫緊の課題である。世界の人口は、今後も大きな増加が見込まれ、2050年には90億人を超えると予想されている。途上国の経済発展に伴い、澱粉質中心からタンパク質・油脂を大量摂取する食生活へと質的な変化が起こっている。それに伴って、家畜飼料の需要が増大し、飼料作物を含めて農作物の生産量を倍増することが必要であると予想されるため、直接・間接的に消費可能な食料を速やかに増加することは地球規模で解決すべき重要課題となっている。

食料需給は、地域的に見れば異なる様相を呈しており、地域の実情にあった方策、地域が連携する方策が必要である。例えば、我が国の食料自給率は急速に低下し、現在40%前後で推移しているが、今後50%まで増加する目標を掲げている。我が国では、急激な少子高齢化が進行する環境で如何に50%の食料自給率を達成するか、さらに残り50%の食料を国外から如何に安定して確保するかが重要課題となってくる。国内的には、少ない生産人口・量力で高い生産性を達成すること、国外的に食料需要が増大する世界の中で必要な食料を確保し、国内に供給するかの戦略が必要な状況になっている。一方、米国は、食料輸出国として世界の食料需要に永く貢献してきているが、世界の人口増加に伴い、今後、一層、大きな貢献、つまり生産性の向上が期待される。

食料の増産・増加は、特に農作物に着目すると、2つの戦略が考えられる。1つ目の戦略は、文字通り、農作物の生産量を増やす方法である。過去50年間の世界の人口を見ると、1960年代に約30億人だった人口が2010年代には約70億人に増加している。この間、人類は、3つの方法で人口増加に見合った食料増産を何とか達成してきている。1つ目は灌漑の充実による農耕地面積の拡大、2つ目は化学肥料の多用による単収の向上、そして3つ目は半矮性形質の利用(緑の革命のコムギやイネが事例)、F1品種(トウモロコシへのF1技術の導入)、遺伝子組換え作物の導入(除草剤耐性ダイズ、害虫抵抗性トウモロコシ、除草剤耐性ナタネ、害虫抵抗性ワタなど)を含めた品種改良による収量性(単収)の向上である。しかし、1つ目の戦略は利用可能な水(淡水量)が世界的に不足している現状を考えると、限界にきており、2つ目の戦略についても化学肥料の多用により農耕地の劣化を引き起こしており、持続的農業生産の維持という点からやはり限界が見えてきている。3つ目の戦略についても従来の交雑育種のみでは、飛躍的な単収の向上は難しいと考えられている。そこで、少ない灌水で収量性を向上させる栽培技術や乾燥耐性作物の育種研究が行われている。また微生物などの力を借りて有機肥料や残存肥料を効率的に利用する農業技術や品種の開発も行われている。さらに、品種改良では、新しい育種技術(遺伝子組換え、ゲノム育種、ゲノム編集など)なども活用し、光合成効率、水利用効率、肥料の利用効率向上などを図り、農作物の単収を飛躍的に向上させる研究開発が世界中で進行している。

消費可能な食料を増加する2つ目の戦略は、生産した農作物の廃棄ロス・流通ロスを大きく低減する方法である。この戦略によれば、現在の生産性や単収を大幅に向上することなく、現状の生産性のままでも、消費可能な食料を増やすことが期待でき、短期的に食料増加を達成できる。例えば、トマトの場合、日本では全生産量のうち、収穫後に消費されずに廃棄ロスされる量が3割とも4割とも推定されている。さらに、収穫後の流通システムが不十分な温暖(あるいは熱帯・亜熱帯)地域では、5割以上が消費されずに廃棄されてしまうと推定されている。従って、この収穫後の廃棄ロスを何らかの方法で低減できれば、現状の生産量のままでも消費可能な食料を大幅に増加できることが期待される。このような視点から、農作物の収穫後ロスを低減する研究開発は、世界的な食料安全保障の確立という課題を達成する上で極めて重要な研究である。また、この農作物の収穫後ロスの低減という課題は、人口増加が顕著な途上国において一層に重要課題となっている。一方、研究開発という点からは基礎研究においても、開発した成果の社会実装研究においても先進国が大きくリードしており、今後、先進国及び途上国の双方を含めた国際研究ネットワークの構築とその成果の社会実装研究が益々必要になる。

農作物の廃棄ロスを低減する基盤となるポストハーベスト研究が精力的に行われてきており、その結果、植物自らが生成するエチレンガスが破棄ロスの主要な原因となっていることが明らかになっている。加えて、植物は自らエチレンガスの生成量と感受性を制御し、日持ち性を制御していることも知られている。さらに、エチレン生合成及び感受性制御に関わる遺伝子も詳細に研究されており、本研究代表者・江面浩(筑波大学・教授)及び研究関係者・ジョスリン・ローズ(コーネル大学・教授)、ジェームズ・ジョバノニ(USDA/コーネル大学・教授)らは、その中核的研究者である。

本研究代表者らは、自ら作成した世界最大規模の実験トマト変異体集団を活用し(Saito et al., 2011; Shikata et al., 2016)、トマトの収穫後生理研究を進め、エチレン感受性制御に関わる遺伝子(エチレン受容体遺伝子)の特定の場所に簡単な突然変異が導入されることで、トマトの重要機能性成分(リコペン、βカロテンなど)の蓄積や耐病性の低下を引き起こさずに、トマト果実の日持ち性が飛躍的に向上できることを見出している(Okabe et al., 2011)。さらに、得られた変異体が品質に優れ、日持ち性が良いトマト栽培品種の開発に有効であることが立証されている(Mubarok et al., 2015; Mubarok et al., 2016)。このような従来育種の方法によりトマトの日持ち性改良に取り組んだ場合、実用品種の開発には10年以上の歳月を要する結果となった。研究代表者らは、同様の日持ち性改良を短期間に実行可能とするため、日本政府が重点研究開発として実施している「戦略イノベーション創造プログラム(SIP)」(担当:内閣府)の中で、ゲノム編集技術を活用し、変異体で得られたものと同様の遺伝子変異を実用品種に再現し、効率的に超日持ち性トマト品種を開発する研究開発に取り組んでいる。エチレンにより日持ち性が制御されている現象は、園芸作物を中心とした農作物では共通の現象であり、先行するトマトの研究で得られた日持ち性を向上する制御技術は、それらの農作物にも広く適用可能と期待できる。それにより、可処分食料の量を現状の生産性のままでも飛躍的に増加できると考えられる。

食料ロスを低減する研究開発は、世界の食料安全保障を確立する上で極めて重要な研究分野である。特に、食料問題が顕在化している途上国では食料ロスの問題は深刻である。一方、技術的には、先のトマトの開発事例で示した通り、収穫後ロスを低減できる日持ち性改良は社会実装可能なレベルに達している。この技術を多くの農作物に展開して行くことで、急増する食料需要に応えることが可能になると期待される。今後は、社会ニーズと技術シーズを適切にマッチングした国際連携による農作物の収穫後ロス抑制研究とその社会実装研究が必要である。

[参考文献]

Saito T, Ariizumi T, Okabe Y, Asamizu E, Hiwasa-Tanase K, Yamazaki Y, Fukuda N, Mizoguchi T, Aoki K, Ezura H (2011) TOMATOMA: A novel tomato mutant database distributing Micro-Tom mutant collections. Plant and Cell Physiology. 52(2): 283-296.

Okabe Y, Asamizu E, Saito T, Matsukura C, Ariizumi T, Bres C, Rothan C, Mizoguchi T, Ezura H (2011) Tomato TILLING technology: Development of a reverse genetics tool for the efficient isolation of mutants from Micro-Tom mutant libraries. Plant and Cell Physiology. 52(11): 1994-2005

Mubarok S, Okabe Y, Fukuda N, Ariizumi T, Ezura H.(2015) Potential use of a weak ethylene receptor mutant, Sletr1-2, as breeding material to extend fruit shelf life of tomato. J Agric Food Chem. 63(36):7995-8007.

Shikata M, Hoshikawa K, Ariizumi T, Fukuda N, Yamazaki Y, Ezura H (2016) TOMATOMA Update: Phenotypic and metabolite information of Micro-Tom mutant resource. Plant and Cell Physiology. 57(1): 1-10.

Mubarok S, Okabe Y, Fukuda N, Ariizumi T, Ezura H (2016) Favorable effects of the weak ethylene receptor mutation Sletr1-2 on postharvest fruit quality changes in tomatoes. Postharvest Biology and Technology. (In press).

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