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研究活動

研究プロジェクト

日本経済と産業の活性化:長期的視野から見たアベノミクス

計画書

研究代表者
(所属)
曳野 孝(京都大学経営管理研究部経営管理講座准教授)
研究関係者
(所属)
グレン・フクシマ(米国先端政策研究所主任研究員)、森 純一(京都大学国際交流推進機構教授)、原良憲(京都大学経済学研究科教授)
研究期間 2015年10月~2016年3月
研究概要

日本経済の失われた20年の間に醸成されたデフレ心理を克服し、日本経済を再び安定した成長軌道に乗せることは容易なことではない。2012年12月に発足した第二次安倍内閣はデフレの克服を旗印にいわゆるアベノミクス政策を打ち出した。これは「3本の矢」と言われる、(1)大胆な金融政策(2)機動的な財政政策(3)民間投資を喚起する成長戦略である。金融政策については、2013年に就任した黒田東彦日銀総裁が異次元緩和を推進した。安倍内閣は積極的な財政政策を進める一方で財政健全化を目指して消費税を増税したが、経済への負の影響は予想以上であった。成長戦略については法人税の引き下げや女性労働力の活用などの政策をとっているが、その成否には不確定である。特に2015年後半には中国における成長率の低下に起因する株安や石油価格の下落のなかで、アベノミクスの成否にも懐疑的な見方も増えている。
この研究では、長期的、構造的な視野から、日米の研究者によりアベノミクスの成果を綜合的に評価しつつ、日本経済とその産業の競争力の再活性化の課題を考察する。G・フクシマはアベノミクスが日本と米国の政治経済関係にいかなる影響を与えているかを検討する。森純一はアベノミクスのマクロ経済的な側面、特に黒田日銀総裁の進める異次元緩和の評価と将来を考える。原良憲はミクロ経済的な側面、特に技術とサービスの観点から、日本産業の現状の分析と将来の競争力のあり方について展望を行う。曳野孝はこれら政治経済、マクロ経済、ミクロ経済の3視点からの検討結果を踏まえ、日本経済とその産業、企業の構造的課題とその解決策について、総合的な観点での検討を行う。

報告書

研究代表者
(所属)
曳野 孝(京都大学経営管理研究部経営管理講座准教授)
研究関係者
(所属)
グレン・フクシマ(米国先端政策研究所主任研究員)、森 純一(京都大学国際交流推進機構教授)、原良憲(京都大学経済学研究科教授)
研究期間 2015年10月~2016年3月
実績概要

本研究は2012年に発足した第二次安倍内閣による経済政策、いわゆるアベノミクスについて、これまで3年間の評価と今後の長期展望、そして日本と米国の政治関係にいかなる影響を与えるかを考えることを目標とした。曳野孝は今回の研究の総括として課題設定を行い、USJIウィークの期間中である2月25日に開催されたワークショップのなかで、それぞれの研究成果として、森純一はアベノミクスのマクロ経済的な側面、特に黒田日銀総裁の進める異次元緩和の評価と将来について、原良憲はミクロ経済的な側面、特に技術とサービスの観点から、アベノミクスの将来展望についての報告を行い、G・フクシマは米国からの観点で二人の研究への論評、さらに日本の政治的な将来について報告を行った。

森は、アベノミクス、特にワークショップの直前に決定されたマイナス金利政策が単に日本における孤立した現象ではなく、グローバルな実質金利の低下のなかでゼロ金利近傍の金融政策に悩む先進国に共通した現象であり、その環境のもとでアベノミクス、特に日本銀行の金融政策が行われていることを理解する必要性を指摘した。その上でアベノミクスの成果をポジティブに捉え、一方、今後の課題として、賃金水準の向上や高齢化社会への対応などの構造政策の必要性を指摘した。

原は、アベノミクスの政策による効果を3つの観点から評価した。①円安による輸出振興、②インバウンドの外国人観光客の増加、③国内における消費の促進であるが、②を除くものでは短期的には十分な効果を生んでいない。今後の長期的な政策として、①第4次産業革命に対応して、物作りの現場などでのリアル・データを把握出来る日本の強さを活かせる産業への投資、②サービス産業での革新への投資として、メディアやコンテンツ産業への投資、③観光産業への投資を挙げている。

フクシマは、まずアベノミクスへの懐疑が強まっている理由として、①アベノミクスの定義が不明確なこと、②2%のインフレ目標は達成できておらず、GNP600兆円の目標達成も難しく見えること、③株価上昇も難しく、円安のポジティブな効果に対して、ネガティブな影響が認識されたことを指摘した。フクシマは安倍政権が重点目標とする政策は4つがあり、①経済政策、②防衛、③東アジアやロシアを初めとする外交、④憲法改正のなかで、アベノミクスは一つに過ぎず、他の分野において日本国内では評価されていることも指摘している。フクシマはさらに、女性労働力の活用を難しくしている日本の長時間労働、高齢化社会への対応、移民問題、そして対外直接投資に比して極端に少ない対内直接投資の問題を取り上げた。

ワークショップにおける議論では、以下の様な点で会場参加者を含めて議論が行われた。
①移民政策のあり方、②クールジャパン政策の意義、③FDIを阻害している文化的障害、④日本の労働慣行、特に正規社員と非正規社員の問題、そして⑤巨大な財政赤字への対応である。
今回の研究とワークショップでは、3年を経たアベノミクスの評価と今後の展望について、参加研究者のみならず、会場からも積極的な質問があり、今後の日本の経済および政治を考える貴重な機会を提供出来たものと考える。

活動内容・
研究成果

2015年9月のグレン・フクシマ氏来日に際して、曳野とフクシマ氏との間で、今回の研究発表の場となるUSJIでのワークショップの基本構想が話し合われ、共同研究者として原良憲、森純一が参加した。
2016年2月25日にUSJI主催によるワークショップをJSPSのワシントン事務所で開催した。現在、研究成果を取りまとめたポリシーペーパを作成している。

関連イベント
のURL

http://www.us-jpri.org/week/feb2016#event6

Policy Paper

研究代表者
(所属)
曳野 孝(京都大学経営管理研究部経営管理講座准教授)
研究関係者
(所属)
グレン・フクシマ(米国先端政策研究所主任研究員)、森 純一(京都大学国際交流推進機構教授)、原良憲(京都大学経済学研究科教授)
研究期間 2015年10月~2016年3月
タイトル 長期的な視点から見たアベノミクスの評価と今後への提言

1.はじめに
日本経済の失われた20年の間に醸成されたデフレ心理を克服し、日本経済を再び安定した成長軌道に乗せることは容易なことではない。2012年12月に発足した第二次安倍内閣はデフレの克服を旗印にいわゆるアベノミクス政策を打ち出した。これは3本の矢と言われる、(1)大胆な金融政策(2)機動的な財政政策(3)民間投資を喚起する成長戦略の政策である。金融政策については、2013年3月に就任した黒田総裁のもとで日本銀行は異次元緩和を推進した。安倍内閣は積極的な財政政策を進めるとともに財政面では消費税の引き上げを1年先送りして実施したが、経済へのインパクトは予想以上のものであった。
2015年には、安倍内閣は新3本の矢という政策を打ち出した。新3本の矢は、(1)希望を生み出す強い経済、(2)夢を紡ぐ子育て支援、(3)安心につながる社会保障、の3点である。新3本の矢では、法人税の引き下げや女性労働力の活用などの政策をとっているが、その成否には疑問が投げかけられている。
ここでは、アベノミクスのこれまでの評価と長期的な将来を考える。1)アベノミクスのマクロ経済的な評価、特に金融政策の評価と今後の展望、2)ミクロ経済的な視点、特に日本経済の課題と将来に向けて必要な投資、そして3)アベノミクスの政治的な評価と将来展望である。

2.アベノミクスとのマクロ政策的な評価
アベノミクスの目標はデフレからの脱却と成長力の底上げである。アベノミクスは、円安による日本企業の競争力回復、そして企業収益の改善をもたらしている。一方で、デフレからの脱却では、アベノミクスの開始当初は消費者物価の上昇は2014年8月にはCPIの上昇率は3.1%、消費増税の影響を差し引いても1.1%の上昇を見たが、その後の世界的なエネルギー価格の急速な下落の影響や国内消費の低迷を受けて、2016年2月には上昇率が0% と日本銀行が掲げる2%に比べてきわめて低いものとなっている。GDP成長率についてはエネルギー価格の急速な下落や中国経済の減速の国際的な環境の悪化もあり、2013年初から2015年末までの12四半期のうち5四半期がマイナス成長という残念な結果となっている。

アベノミクスには多くの批判がある。特に日本銀行の異次元の金融緩和やマイナス金利政策には多くの批判が集中している。しかしマイナス金利政策が単に日本における孤立した現象ではなく、グローバルな実質金利の低下のなかでゼロ金利近傍の金融政策に悩む先進国に共通した現象であり、その環境のもとでアベノミクス、特に日本銀行の金融政策が行われている点ことを理解することが必要である。世界の先進国はいわゆる「長期停滞 (Secular Stagnation)」に悩まされている。「長期停滞」による金利低下とは、技術的な停滞、人口動態の変化、所得格差の拡大などの原因から投資需要が停滞し金利水準が低下していく現象であり、世界の先進国の中央銀行はゼロ%近傍の金利水準における困難に直面している。欧州中央銀行やスウェーデン、スイスの中央銀行は既にマイナス金利政策をとらざるをえない状況となっている。

多くの先進国でマイナス金利政策が行われており、その原因が上に述べるような「長期停滞論」に基づく先進国に共通の現象であることを考えれば、日本のみがこれに反する政策を取ることは不可能であり、仮に日本銀行が積極的な流動性供給やマイナス金利政策から離脱することは急激な円高や株式市場の暴落などを招くこととなろう。

マクロ経済的な観点からアベノミクスに残された大きな課題は何といっても急速に進む高齢化社会に対応できる構造改革である。ここでは二つのことが大きな課題となる。一つは年金・社会保障改革である。日本の財政の最大の項目は年金・社会保障関係支出であり、高齢化社会のなかで若い世代の負担を減らすための改革が不可避である。今一つは、女性労働力の活用である。安倍政権は女性の社会的な地位の向上と併せて安心して「夢を紡ぐ子育て支援」を政策課題とした。しかしながらその後、保育園の待機児童が深刻な問題として取り上げられている。これらの課題の解決は安部政権の重い課題である。

2.ミクロ的な視点からのアベノミクス
アベノミクスの政策は、①円安による輸出振興、②インバウンドの外国人観光客の増加、③国内における消費の促進からなっていると考えられるが、このうち②のインバウンドの外国人観光客の増加を除くと、円安による輸出振興と国内における消費の促進については効果を生んでいない。前者については日本企業が既に海外に多くの生産拠点を持ち、円安が輸出に結びつかないことがある。また後者についてはアベノミクスが賃金の上昇に結びついておらず、労働者の実質賃金の低下が起こっており、消費者の消費態度がきわめて慎重なものとなっていることが挙げられる。

安倍首相は、2015年の「新3本の矢」では強い経済を実現し日本のGDP600兆円を目標として掲げた。ただし実現の目標年は明示していない。これは日本のGDPを約2割引き上げることを意味する。このためには新しい産業への投資が欠かせない。

今後の長期的な政策として、①第4次産業革命に対応して、物作りの現場などでのリアル・データを把握出来る日本の強さを活かせる産業への投資、②サービス産業での革新への投資として、メディアやコンテンツ産業への投資、④観光産業への投資が挙げられる。

現在は情報を核とする第4次産業革命の時代であり、日本のこれまでの「もの造り」における強さを活かす投資が必要である。たとえば、IOTやビッグデータを利用した「もの造り」の現場でのリアルタイムでの情報収集による製造業の革新である。

日本の産業構成を考えるともっとも大きな比重を占めるサービス産業への投資も重要である。特にメディアやコンテンツの領域において、日本の持つ伝統を活かした国際的な情報発信が欠かせない。日本企業には顧客との関係を重視し、数百年にも及ぶ長い歴史を持つ企業がある。政府は2016年4月にはじめて日本の優れたサービス業を表彰する日本サービス大賞を作り、優れたサービスの作り手を表彰することとしている。また日本の「クールジャパン」は日本文化の発信を通じて、日本企業の海外での新たな利益機会の拡大、また訪日外国人の増加を計ろうとする取組である。

近年における日本への海外観光客の増加には著しいものがある。2015年には年間の来訪外国人観光客数が1973万人となり、2016年は2000万人を超えることが期待されている。安倍内閣も新たな目標として、日本でオリンピックが開催される2020年には4000万人と倍増する目標を3月に発表した。現在でも既にホテル数が不足している。ビザ発行条件の一層の緩和と併せて受入体制の整備が欠かせない。民泊の促進などの規制緩和が検討されている。

もの造りやサービスでの日本の伝統を活かした新しい取組が日本経済の再活性化に貢献し、アベノミクスの長期的な目標達成に役立つと期待される。

3.アベノミクスと日本が抱える政治的な課題
アベノミクスについて最大の貢献は安定した政権が実現したことだという皮肉な見方をすることもできる。確かに第2次安倍政権発足までの日本の首相の交代は甚だしく、その名前を正確に列挙することすら難しい。安倍政権は既に発足して3年半を経過し、2018年の自民党総裁の任期 までという観測も行われている。この安定した政権の間にアベノミクスを成功させることは日本の将来にとって決定的に重要であり、最後のチャンスであるかもしれない。

安倍首相は政権運営に当たって野心的な抱負を持って臨んでいるが、基本となる経済制作に十分な政治的資源を投入する必要がある。安倍政権には4つの領域でそれぞれに目標を持っているようだ。4つの領域とは、(1)経済政策、(2)防衛、(3)東アジアやロシアとの外交政策、(4)憲法改正の領域である。

ここで問題は、アベノミクスは安倍政権が重点とする4つの大きな目標の一つに過ぎず、他の政策目標の実現のためにアベノミクスの改革を行うための貴重な政治的資源が消費されているという懸念があることだ。経済改革には膨大なエネルギーが必要であり、そのためには内閣としての集中的な努力が必要ではないかと思われる。

日本が抱える高齢化社会の問題はこれまで日本で十分ではなかった改革への努力を一層必要としている。たとえば、女性労働力の活用を難しくしている日本の長時間労働の問題が挙げられる。またこれまでもタブー視されている移民問題にも何らかの方針を示し、受け入れを増やす必要がある。改革は小手先のものでは済まないだろう。たとえば日本の企業風土の変革も必要であろう。一例として、対外直接投資に比して極端に少ない対内直接投資がなぜ増えないのか。ここには未だ閉鎖的な日本経済の問題が現れており、その結果、日本は豊かさへの投資を失っているように思われる。

最後に日本はその巨大な財政赤字にどう取り組むかを真剣に議論する必要がある。もちろん財政赤字を抑えるために直ちに消費税を引き上げることは経済運営にネガティブな影響を与える可能性があり、慎重な判断が求められる。しかし、この問題はいずれ避けて通れないことを銘記しておく必要がある。

4.まとめ
安倍政権はオリンピックの招致に成功した。2020年は安倍首相の任期の最後の年となる可能性が高い。オリンピックが終わるとともに間違いなく日本の高齢化が一気に進むことになる。日本社会はそのとき、高齢化社会のきわめて厳しい現実に直面せざるを得なくなるだろう。日本経済をとりまく国際環境も予断を許さない。米国の景気が世界をどこまで牽引できるか、中国が6%台の成長を維持していけるのか、不安定な材料には事欠かない。アベノミクスとそれを実現した安定内閣の存在は日本社会に希望を与えた。政権発足以来の高い支持率はそれを示している。日本の長期的な反映のためには、ぜひとも本ペーパーで述べたマクロ・ミクロ的な政策、そして困難に立ち向かう政治的な意志を国民の間に形成していくことが必要であり、唯一の道である。

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