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USJI Voice

USJI Voice Vol.23

トランプ新政権と今後の日米関係

2017.02.23
Maeshima_Kazuhiro
前嶋 和弘
上智大学 教授/日米研究インスティテュート(USJI)運営アドバイザー

アメリカのトランプ新政権が発足し2月20日で1カ月となった。様々な変化がみられる中、日本国内でも新政権の動向に極めて高い関心が注がれている。本稿では、トランプ政権と日米関係の今後について、展望してみたい。

日米同盟強化に安堵する日本

トランプ氏については、昨年の選挙戦の段階から既存の日米関係にとらわれない発言が多く、日本の国内でも新政権に対しかなりの不安があった。しかし、2月3、4日のマティス国防長官の訪日、および2月10日、11日の安倍首相の訪米と日米首脳会談の結果を受け、日本のトランプ政権の懸念は大きく変わりつつある。

特に安全保障問題については、これまでのアメリカの諸政権からの継続と日米同盟の強化が示されたことで、一気に国内の不安感が解消したといえる。マティス国防長官が2月初めの来日で示した「尖閣は日米安保条約5条の対象」という点が、日米首脳会談直後の共同声明でも盛り込まれたのが日本としては大きいといえる。トランプ大統領に口頭で確認するのだはなく、文章として記載されたことによって、日本としては危険性が増している尖閣有事の際の状況においても日米同盟が機能することを再確認できたことが大きい。

日米首脳会談後、楽しそうにゴルフを行う安倍首相とトランプ大統領の2人の姿を見て、日本国内では一種の安堵の雰囲気すらある。昨年、11月の当選直後、安倍首相が真っ先に渡米し、トランプ氏と面談しているという前提があったことも大きかったのかもしれない。

ただ、反実仮想だが、もし、今回の首脳会談で尖閣問題を再確認できなかったとすると、それだけで、日米同盟は漂流していたかもしれない危機もあった。もし確認できなかったとすると、東シナ海、南シナ海での中国の進出がさらに目立ってしまう可能性すらあった。トランプ氏は2016年の選挙戦では「日米安保は片務的、もっと負担を」と発言し、日本に在日米軍駐留経費の全額負担に応じなければ、米軍を撤退させるとし、ついには「日本の核武装」容認まで踏み込んで指摘していた。そのトランプ氏の発言に、私を含む日本人の多くが耳を疑い、最悪は日米同盟の破棄といった状況まで想定した。そもそも政権発足から3週間のこの時期に首脳会談を行う妥当性についての議論もあり、日米同盟が進化していくのか、あるいはしぼんでいくのか、日本側としてはそれを早期に確かめる大きなかけでもあった。

しかし、マティス国防長官の訪日、日米首脳会談の結果、これが杞憂に終わりそうである。共同記者会見では、米軍駐留経費に占める割合の中で日本側の負担の大きさにトランプ大統領からの賛辞すらあった。これにはやや驚いたが、日本側の負担は75%に達しており、すでにほかの多くの同盟国よりも日本側は負担してきたことをようやく理解したのではないか。

今回の日米首脳会談の結果、中国は海洋進出に当面は慎重にならざるを得ないだろう。また、取材を受けた韓国の記者が語っていたが、他のアジアの同盟国にとっては日米同盟継続が同じように自分たちの国とアメリカとの同盟関係の絆の確認でもあった。トランプ新政権で日米同盟の絆は揺ぎないだけでなく、日米安全保障条約は日本だけでなく、「極東における平和と安全」のためにあるという事実を再確認したのが、今回の首脳会議であった。

不透明感がある経済関係の行方

日米同盟の深化が確認された安全保障面での動きに対して、日米間の貿易・通商問題の行方は依然不透明がある。日米首脳会談では、マクロ経済政策や貿易枠組みなど分野横断的な経済対話を行っていくことで合意した点では高く評価されるが、2月20日現在、まだ具体的な話に移っていない。

そもそも2016年の選挙戦の中でトランプ氏は、「日本は不公正貿易国」「日本はアメリカ人の雇用を奪うだけ」「中国と並ぶ為替操作国」などの一連の発言を続けてきた。日本が過去20年以上、現地法人としてアメリカに進出し、アメリカ国民の雇用を支えてきた事実にトランプ氏は全くふれておらず、日米経済摩擦時の「ジャパンバッシング」の論理そのものだった。「ビジネスマン的に議論をする」のがトランプ氏のモットーであり、このような指摘も一種の駆け引き材料のようであるが、実際に、今後どのような展開になるのか、日本側としても読みにくいのが本音である。

すでに、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)については、トランプ大統領は就任直後の大統領令で脱退を宣言している。2カ国間の自由貿易協定作りの余地は残されているものの、TPPについて、これまで入念に細部まで詰めてきた日本からすれば非常に大きな痛手ではある。

日米首脳会談直前に話題となった70万人の雇用創出・インフラ投資で4500億ドル(約50兆円)の市場を生み出す具体的な方法がおそらく今後の経済対話の焦点となるであろう。アメリカが弱いのがインフラ分野であり、ここで何らかの形で日本の技術やノウハウを示すことができれば、日本からの継続的な需要にもつながる。

トランプ政権の不確実性は高いが、安全保障面での同盟関係の確認のような、相互に利益のある経済関係づくりになることを期待したい。

国際社会の中での今後の日米関係

トランプ新政権そのものの評価は非常に難しい。政権発足後は、メキシコ国境での「万里の長城」建設、オバマケアの撤廃など、「まさかここまではやらないだろう」と思われていたような賛否が大きく分かれる選挙戦の公約を次々に大統領令に盛り込んでいったためである。公約とは言え、自分に投票してくれた「白人ブルーカラー層」などの人々だけを喜ばそうとする政策に対して、トランプ政権のイメージは国際的にも非常に悪い。

ロシアとの浅からぬ関係が選挙戦中から指摘されていた中、215日にはトランプ氏の側近中の側近であるフリン安全保障担当補佐官が、政権発足前にロシア大使と話し合っていた事実が発覚し、辞任に至っている。ロシアとの関係が政権内で組織的行われていた場合、今後、大きな政治的な責任が問われてしまうこともゼロではない。極め付けがイスラム圏7か国の入国禁止であり、選挙戦中に示したイスラム教徒の全面入国禁止ではないが、あまりにも急で強硬なやり方であり、国際的な非難を浴びつつある。

政権発足からの動きを見ていくと、これまでの多元的で異質なものを取り込むのに寛容なアメリカが大きく変わりつつあるようにもみえる。まるで、アメリカがこれまで長年培ってきた国際社会での信頼を捨てようとするような行為でもある。今回の日米首脳会談での両国首脳の良好な関係に対して、アメリカ国内のリベラル派だけでなく、トランプ政権に批判的な国際世論も否定的に見ている部分もあるはずだ。

そんな中、日米首脳会談を経て信頼醸成が深まったことは決してマイナスなことばかりではない。トランプ政権への批判は国際的に大きいが、親密な首脳同士の関係をテコにして、今後のG8などの機会において、安倍首相が各国首脳とトランプ大統領を世界に紹介する橋渡し役になるだろう。日本としては、トランプ政権が進む道を誤らないように導くような新しい役割が求められているのかもしれない。

日本としてはアメリカの変化をみつめながらも、これまでと同じように自由や民主主義、法の支配などを伝える良いパートナーでありつづけるべきだ。世界の各国の諸問題を率先して解決するような模範となる2国間関係を日米は築いていくべきであるという姿勢は変えてはならない。

 

【関連号】
USJI Voice Vol.19 2016年アメリカ大統領選挙:日本からの視点
前嶋 和弘(上智大学 教授/日米研究インスティテュート(USJI)運営アドバイザー)

【関連プロジェクト】
2016年アメリカ大統領選挙と日本

 

 


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