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USJI Voice

USJI Voice Vol.26

日本の開発援助政策: 二国間ODA融資の貸付額と返済額の逆転現象

2017.06.05
Takase_Koichi
高瀬 浩一
早稲田大学 教授

1.はじめに

近年の日本経済は停滞する一方、世界経済は全体的に成長傾向にあった。途上国経済、特に、中国やインドなどの新興国は急速な経済成長を達成した。今世紀初頭の人類共通の課題であった貧困削減を主とするMDGs (Millennium Development Goals)は大幅に改善し、最近ではSDGs (Sustainable Development Goals)という地球規模の新たなエネルギー・環境課題に直面することとなった。ブレクジットや米国新大統領の就任、更には、緊迫する朝鮮半島や東・南シナ海情勢など、日本を取り巻く国際社会は今まさに激動している。このような中、日本はどのようにして、国際的な地位を確立し、国際的な責任を果たしていけばいいのだろうか。

2.日本の国際協力と開発援助

従来から日本政府は国際貢献の柱として、政府開発援助(ODA: Official Development Assistance)を途上国に供与してきた。OECDによると、ODAは受入国の経済成長と厚生向上を目的とし、原則的に、受入国のために拠出されなければならない。ODAは返済する必要がない無償資金協力と返済義務のある有償資金協力に分けられる。前者は贈与(グラント)と技術協力・技術援助により成り立ち、後者は受入国に有利なように低金利であり、時には支払猶予期間も設定されるようなODAローンのことである。

拠出主体がOECD諸国などの各国政府である場合は二国間援助、そして、国連や世界銀行のような国際機関の場合は多国間援助と呼ばれる。日本では、国際協力機構(JICA: Japan International Cooperation Agency)が無償資金協力の過半に加え、円借款(円貨による貸与)を中心とした有償資金協力[i]のほぼ全てを担当し、世界有数の開発援助機関となっている。国際協力銀行(JBIC: Japan Bank for International Cooperation)は国際市場金利と比較してODAローンの条件に満たない、その他の公的融資(OOF: Other Official Flows)を担当しており、先進国を含む途上国以外の国も融資対象となっている。

日本の二国間援助の第1の特徴としては、無償と有償の割合が近年でも約50%前後を推移し、他の主要拠出国と比較して有償の割合が高いことである[ii]。これに関係しているが、第2の特徴は、拠出目的が明確に経済・社会・教育等のインフラに特化したプロジェクト援助の割合が高く、巨額な融資により大規模なダム・用水・道路・鉄道・港湾・空港などの受入国経済の生産可能性を高めるものも多い。第3は、拠出開始時から一貫して地域配分の傾向がアジア重視であり、過去には80%以上、そして、近年漸減しながらも最低でも60%強となっている。最近では、極東アジアは2000年前後から全二国間援助に占める割合が約30%へ減少している一方、南・中央アジアは同じ時期に10%強から2013年には60%へ急増している。

近年の日本のODA支出は、その経済成長の停滞に合わせるかのように伸び悩んでいる。各年のODAの支出額は、実際に拠出された無償および有償援助の支出総額と、総額から過去のODAローンの返済額を差し引いた支出純額の二種類ある。以下の外務省(2016)による図1と図22006年から2015年までの、主要援助拠出国のODA総額(二国間と多国間の合計)およびその純額実績のグラフを表している。リーマン・ショックや東日本大震災の影響による極端な落ち込みは当然としても、ODA拠出額おいて日本の相対的な国際的地位の着実な低下が如実に示されている。

図1-主要援助国のODA実績の推移(支出総額ベース)

図2-主要援助国のODA実績の推移(支出純額ベース)

過去のODA融資に対する受入国からの返済が近年順調に推移している。返済の推移自体は大変喜ばしいことではあるが、結果として、総額から返済額を差し引いた純額では、2007年以降アメリカ、英国、ドイツ、フランスに続く5位(20134位を除き)となり、2015年に僅差で4位となっている。更に、2014年以降、総額でもアメリカ、イギリス、ドイツに続く4位に甘んじている。日本は実質GDP額世界第3位、先進国では第2位である。確かに、二国間ODA拠出総額では世界第2位を維持しているとはいえ、多国間を加えたODA純額において主要拠出国中45位、総額においてでさえ4位の状況は、何らかの対策を取るべき深刻な事態に陥ったと思われる。

3.日本のODA融資とその理想的な政策

ODA総額・純額ともにランキングを上げるためには、多国間および二国間援助額の両方か、少なくともどちらかを増やすしかない。多国間援助の大部分は国際機関への拠出金など、国の経済規模に応じた負担額であり、そこから大きく逸脱することは、特に、国内的には支持されにくい。仮に日本が多国間援助を大幅に増やしても、受入国にとっては、直接の拠出元である国際機関に対する評価が高まる一方、その原資を拠出する日本に対して良い影響が発生するとは考えにくい。したがって、二国間援助を増加させる方が、各途上国との関係を良好に保つためには、より効率的であろう。

それでは、二国間ODA総額を増加するためにはどうすればよいのだろうか。ODA純額が低くなる原因は高い融資比率により、過去の多額のODA融資に対する返済が急増したことに加え、ODA総額の伸び悩みが重なったためである。以下の図3は、近年(2000年から2014年)の日本の二国間ODA融資における、貸付額と返済額のグラフを表している。そこには、近年の貸付額の停滞と返済額の急激な上昇の結果、その収支であるODA融資純額が赤字となる状態が示されている。これがODA拠出純額順位への悪影響の直接の原因である。受入国全体として、日本から新たに貸与される額が、回収されている額より低くなる現象が最近引き続き発生していることになる。国際社会において、特に、途上国側からの日本に対する評判が着実に毀損されていると考えざるを得ない。また、中国を中心とするAIIB (Asian Infrastructure Investment Bank)設立への世界的な支持の遠因となっている可能性も否定できない。

図3-ODA融資貸付額・返済額の変遷

日本のODA総額の目標はその経済規模に準ずると、年間ODA総額の順位がOECD加盟国内では世界第2位、最低でも第3位となるように政策目標を設定すべきであろう。ODA純額の目標はODA融資純額が赤字とならない、すなわち、各年のODA融資(貸付)額がODA返済額より大きくなるように決定することである。そうすれば、無償資金総額がODA純額より大きくなり、ODA純額順位の過度な悪化を防ぐことができる。

最も単純な方針は、各受入国へのODA融資額が返済額より大きくなるようにすることである。そうすれば、自動的に、各地域への融資額も返済額以上になり、二国間ODA融資額の目標は達成される。ただし、これまでのアジア重視の政策を維持する、更には、特定の受入国へ重点的に配分する場合は、複数の受入地域あるいは国の間で、ODA融資額と返済額の帳尻を合わせる方法が考えられる。

例えば、アジア重視を維持する場合は、他地域のODA融資純額をあえて赤字にしても、アジア地域全体を黒字化するという方法もある。あるいは、アジア地域内において、急激な経済成長を既に達成し終えた極東アジアを赤字化する一方、現在、急激な成長を開始した中央・南アジアを黒字化することにより、アジア地域全体の収支を均等にできる。同様に、特定の国を黒字化する一方、別の国を赤字化することも可能である。すなわち、各国間の経済格差に合わせて調整する方法である。具体的には、継続的に高い成長率を達成した国(UMICs: Upper Middle Income Countries)にはODA融資を減額するか無くし、一方、成長率が低く留まっている国(LICs: Low Income Countries)や高成長を始めた国(LMICs: Lower Middle Income Countries)にはODA融資を増やすような方針である。

4.主要受入国へのODA融資と新たな国際協力支出への提言

日本の二国間ODA融資累積額(1960年~2014年)はインドネシア、インド、中国、フィリピン、ベトナム、タイ、パキスタン、マレーシア、スリランカ、バングラディシュの順であり、アジア重視の傾向を如実に表している。以下の図4は累積額第1位であるインドネシアのODA融資収支のグラフを表している。インドネシアは日本にとって貿易や安全保障など多くの面から重要な大国であり、過去から現在に至るまで、巨額のODA融資が供与されてきた。しかし、近年の継続的な高成長の結果、2006年以降、収支は赤字であり、年間額では返済額が貸出額を上回っている。

図4-インドネシアに対するODA融資貸付額・返済額の変遷

最近、インドネシアでの高速鉄道プロジェクトにおいて、日本が土壇場で中国に取って代わられたことがあった。様々な要因が考えられるが、融資の純額が赤字であることは、受入国にとって、正直気分の良い状態ではないだろう。日本から新規融資のない中国が2009年以降赤字であるのは当然としても、フィリピンも2008年以降収支は赤字となっており、日比関係にも影を落としている可能性がある。第2位のインドと第4位のベトナムの収支は最近まで黒字となっている。両国とも高い経済成長を経験しており、かつ、現在日本にとって戦略的に重要な国として理にかなった結果とも評価できる。

5.日本の国際経済協力支出への提言

途上国で高い経済成長を継続している場合、戦略的に重要な国であったとしても、その高い所得レベルにより、新規のODA融資を減少せざるを得ない場合もある。その場合、受入国(途上国や新興国)に対するODA融資から金利条件の厳しい公的な融資であるOOFへの移行により、効率的な配分が可能になるかもしれない。DACリスト国全体(または、アジア地域)に対する公的融資総額(ODA貸付+OOF)に注目することを提言したい。以下の図5は日本の途上国に対するOOF供与額収支のグラフである。

図5OOF貸付額-返済額の変遷

残念ながら、近年では、日本からのOOF貸付額は増加傾向になく、非常に不安定である。全体として、ODA融資の減少にOOFの増加が追い付いていないことが容易に推測できる。途上国の理想的な成長モデルは、所得を順調に増加させることにより、LLDC (Least Less Developed Countries)、LIC、LMIC、UMICと推移することである。これをODA受入の側面に当てはめると、無償資金協力、非常に低金利の有償資金協力、徐々に金利を上げたODA融資を経て、最終的にはODA受入国から卒業する。その後は、市場金利に近いOOFに移行し、公的資金から民間投資(FDI等)が主流となり、究極的には先進国として新たなODA拠出国となることである。したがって、総額、地域内、二国間ベースで、ODAからOOFへのスムースな移行が望ましく、その一つの尺度はODA貸付・OOF合計額とそれらの返済額合計を比較することである。

現在日本のODA政策は各受入国に対して、方針が厳密に決定され、かつ、新規の融資の条件も返済可能性を前提とした、明確な条件の基で行われている。しかし、戦略的かつ弾力的に運用するためには、前述したようにOOFの活用も有望な選択肢となる。例えば、インドネシアの高速鉄道のようなケースでは、競争相手の融資条件を前提にして、あえて、ODA融資に限ることなく、市場金利を前提にして勝てる範囲で金利を調整し、同時に、ODA融資限度を超えた額のOOFを提案してもいいだろう。

6.おわりに

低成長が続く日本経済では、政策金利が最近マイナスまで落ち込み、異次元の通貨管理体制が進行中である。ODA融資を含む公的融資の原資は、郵貯・簡保を基にする財政投融資(正確には財投債や財投機関債)に依存している。現在、ODAやOOFを通じて、未だ開発途上で高い経済成長が期待できる途上国に融資することは、乗数効果が見込めない日本国内のプロジェクトに融資するより投資効率が高い。さらに、ODA融資においても、低いとはいえ、プラスの金利が設定されるので、国益にも沿うと考えられる。このように、日本政府には、日本と途上国の双方に利のあるODA政策実現に向けて、抜本的かつ大局的な議論を要望したい。


[i] これ以降、特に明記していない場合、日本の二国間ODAやOOFに関しては、日本からの拠出実績金額(百万米ドル)を基にしており、データの出典は全てOECD(http://stats.oecd.org)による。本稿のデータ収集とグラフ作成にRAとして活躍してくれた早稲田大学商学部の山口秀太郎君に心より感謝する。

[ii] 過去には、国際協力事業団(旧JICA)が日本の無償資金協力の過半を、海外経済協力基金(Overseas Economic Cooperation Fund: OECF)が日本のODA融資を、日本輸出入銀行(輸銀)が日本のOOFを担当していた。OECFと輸銀が合併しJBICとなったが、後に、JBICODA融資部門(元OECF)が分離し、旧JICAに統合され現在のJICAとなった。高瀬(1999)が「日本の経済協力の財務的及びマクロ的効率性」(フィナンシャル・レビュー第52号)において、OECFと輸銀への融資受入国からの返済について議論している。当時、途上国による利子や元本の本格的な返済は、かなり先の将来の可能性として想定されており、現在とは隔世の感がある。

 


USJI Voiceは、USJIの連携大学の研究者による政策関連オピニオン・ペーパーです。USJI Voiceでは、日米関係やその関連トピックに関心のある専門家の方々に向けてさまざまな記事をお届けします。
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