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研究活動

USJI Voice

USJI Voice Vol.33

両国内政から考える今後の日米関係

2017.12.06
Machidori_Satoshi
待鳥 聡史
京都大学 教授

ドナルド・トランプ大統領の訪日は、大きな滞りなく終わった。良好で強固な日米同盟関係が確認されたが、それを額面通り受けとることはできるだろうか。本稿では、日本とアメリカそれぞれの内政が現在どのような状況にあるのかを検討し、それがどう影響するかを考える作業を通じて、今後の日米関係を展望してみよう。

1.日本政治の現状

2017年10月の衆議院選挙は、定数465に対して自民党と公明党が300議席以上を獲得し、3回連続で圧勝した。与党である両党は既に13年の参議院選挙で「ねじれ国会」を解消しており、制度的に見れば安倍晋三政権は望む政策を推進できる立場にある。

しかし、次の2つの要因により、今回の衆議院選挙結果が安倍政権の政策展開を加速する方向に作用するようには思われない。

1つは、与党の圧勝が野党の分裂に大きく助けられたことである。今回の衆議院選挙の直前に、野党第一党であった民進党は実質的に2つの政党に分かれた。民進党は、世論調査での支持率が伸び悩むなど党勢はふるわない状態が続いていたが、政権批判票の受け皿にはなりえた。それが分裂したことで、与党に有利に作用したのである。与党としては、選挙結果ほどの有権者からの強い支持は感じていないであろう。

もう1つの要因は、安倍政権への支持率が選挙後にも以前ほど高い水準にないことである。2012年12月の発足以降、安保法制への反対運動が強まった15年夏の一時期を除いて、安倍政権への有権者の支持率は不支持率を大きく上回っていた。ところが、森友学園や加計学園の問題が明るみに出た17年春からは、各種世論調査でしばしば不支持が支持を上回るようになった。衆議院選挙での与党圧勝にもかかわらず、安倍政権への支持率はやや上向いたに止まっており、依然として支持と不支持が拮抗する状態が続いている。

これら2つの要因により、日本政治は現状維持的な傾向を帯びることになるであろう。衆議院選挙で勝利を収め、2018年には参議院選挙などの主要な選挙も予定されていない。本来であれば、安倍政権にとって最も有利な条件が与えられており、それを活用して積極的な政策展開を図るべき時期に当たる。しかし、首相が強い関心を示す憲法改正を除くと新味のある政策は打ち出されず、社会経済構造の変革は進まないと予想される。

2.アメリカ政治の現状

2016年11月の大統領選挙で衝撃的な勝利を収め、世界中の注目を集めながら17年1月に就任したトランプ大統領だが、内政面での成果は芳しくない。

とりわけ深刻なのが、連邦議会との対立が続いていることである。アメリカの政治制度上、政策を積極的に推進するには政府部門間の協調が不可欠だという特徴を持つ。近年では、共和党と民主党という二大政党がそれぞれ保守とリベラルという理念的立場を強く主張するようになり、政党間関係の分極化が目立っている。そのため、議会多数党と政権党が重なる「統一政府」の場合には、部門間協調の実現が容易になる傾向が見られる。

トランプ政権の場合、議会両院で共和党が多数を占めており、統一政府の状態にある。近年の部門間関係と政党間関係から考えれば、本来なら政策を実現しやすいはずである。しかし、トランプは大統領選挙時から議会共和党をはじめとする党内主流派との関係が円滑でなく、現在に至るまでそれは変わっていない。統一政府でありながら、部門間の対立関係が目立っており、ロシア疑惑の展開次第ではいっそう深刻化する恐れもある。

現在までの状況が続くようであれば、アメリカ政治は当面、現状維持的な傾向を示すであろう。権力分立制の下で部門間対立が基調になる場合には、政策過程は停滞し、新しい政策の展開は困難になる。中間選挙が近づくにつれて、議会共和党側に目立った成果を求めて政権側との協調関係を構築する試みが強まる可能性もあるが、トランプ政権が応答するかどうかは未知数である。

3.日米関係の展望

ここまで見てきたように、日米両国の内政は、今後いずれも現状維持志向となる可能性が高い。そのことは両国の外交に影響を与え、日米関係にも波及すると考えられる。現在、日米関係には差し迫った懸案があるわけではなく、文化面を含めた長年の友好関係があるため、両国の政治が現状維持的になることは、相互の関係に大きな波風が立たないこととほぼ同義である。安倍首相とトランプ大統領の個人的な関係も良好である。首脳会談で示された蜜月ぶりは表面上だけのものではなく、日米関係は当面悪化しないであろう。

しかし、過度の楽観も禁物である。次の3点については、日米関係にとっての潜在的リスクとして意識しておく必要がある。

1つには、経済・通商政策に関して、アメリカが環太平洋経済連携協定(TPP)に復帰する、あるいは日本がアメリカとの二国間自由貿易協定(FTA)交渉に積極的になる、といった展開は想定しにくい。TPPにせよFTAにせよ、両国内において消極的な立場をとる勢力が存在しており、それを抑えて交渉を進めることはそもそも容易ではない。今後の両国の政権が、そうした難しい課題に取り組むとは考えづらい。しかしそのことは日米経済関係の深化を妨げ、とくに東京五輪に伴う内需がなくなる日本には、2020年以降のマイナス要因として作用する。

もう1つは、これに関連して、現状が大きく変化しないがゆえに、日米間に1980年代あるいは90年代に見られたような経済摩擦が生じる恐れも否定できない。かつての日米経済摩擦は、両国が良好な関係を維持するために国内で必要な政策をとらずに、相手国に責任を押しつけたところに一因があった。日米それぞれが現状維持的になり、自己改革能力を十分に持たない場合には、このような展開の再現はありうる。

第3に、内政面や対外経済面での現状維持が行き詰まりと捉えられる場合に、北朝鮮問題などについて安全保障・軍事面での短期的成果を追求する動きが生じないとも限らない。とりわけ、アメリカ側ではトランプ政権内の政策決定において軍事以外の専門家の影響力が従来よりも小さく、政策決定の予測可能性がこれまでの政権に比べて低いこと、日本側では北朝鮮や中国の軍事的脅威が世論に過大評価される傾向が見られることに、注意が必要である。もちろん、日米のみが関わる話ではない以上、常識的に考えれば東アジアにおける軍事衝突の可能性はまずない。しかし、過度の挑発の末に不測の事態が起こるリスクが、かつてなく高いことは認識されるべきであろう。

 


待鳥 聡史(マチドリ サトシ)
京都大学大学院法学研究科教授。専門は比較政治論、アメリカ政治論。京都大学大学院法学研究科博士後期課程退学。京都大学博士(法学)。カリフォルニア大学サンディエゴ校客員研究員、大阪大学助教授等を経て、2007年より現職。主な著書に『アメリカ大統領制の現在』、『代議制民主主義』、『首相政治の制度分析』など。

 


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