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USJI Voice

USJI Voice Vol.37

トランプ時代の移民政策と日本

2018.02.21
南川 文里
立命館大学 教授

トランプ政権1年目の移民政策

ドナルド・トランプ政権が、発足後最初の1年間に熱心に取り組んできた政策の1つとして、移民政策が挙げられる。出馬時から繰り返された反移民発言と「壁」の建設に象徴される閉鎖的な政策提案は、1人の実業家を大統領選挙の主役へと押し上げた。就任後に次々と署名された大統領命令は、中東諸国からの移民・難民の入国規制、米墨国境における「壁」の設置、非合法移民取締りへの州・地方の動員、「聖域都市」への連邦補助金の停止など、選挙時の主張をほぼ反映させたものであった。これらの大統領命令の多くは、司法の判断によって差し止めや限定的な執行にとどまっているが、新政権の反移民の姿勢は、米国への人の移動を抑制しているようだ。実際、2017年には米墨国境での非合法越境者の減少、国内で連邦当局に逮捕された非合法移民数の増加、難民受入数の大幅な減少が報告されている。連邦政府の主導による厳格な国境管理と国内取締り制度の追求は、「移民の国」という国内外で共有されてきた米国のイメージを大きく動揺させている。

とはいえ、以上のような国境管理体制の厳格化は、トランプ政権下であるがゆえに生じた「排外主義」的転換というよりは、それ以前からの長期的趨勢のもとで考えるべきだ。トランプ政権の移民政策を支える数々の制度は、1990年代以降の移民制度改革のなかで形を為してきた。たとえば、州や地方の警察や役人と連携した非合法移民取締りの実施は、1996年の移民法改革によって制度化されたものであったし、米墨国境におけるフェンスの設置はジョージ・W・ブッシュ政権下で進められてきた。中東諸国を指定して入国に制限を加える制度もオバマ政権で始まった取り組みである。そして、強制送還された移民の数は、2012年にはじめて40万人を越え、2002年から10年間で2倍以上に増加している。トランプ政権の移民政策は、このような国境管理強化の延長線上に成立している。

移民政策をめぐって深まる溝

トランプ政権下の移民政策をめぐる混乱のなか、移民の社会統合を実質的に支えてきた州や地方の役割が再評価されている。米国の移民受入の枠組は、法的資格や出入国管理に関わる業務を連邦政府の管轄とする一方で、移民の日常生活に関わる領域は、州・地方政府の管轄とする二重体制となっている。ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスなど、多くの移民を抱える大都市は、非合法移民を含む移民の基本的な権利を保護し、教育・医療・福祉などの社会サービスを提供している。たとえば、非合法越境した子どもの米国での教育を支援する「ドリーム法」、連邦当局への非合法移民の通報や引き渡しを地方政府が拒否する「トラスト法」、非合法移民に対する運転免許証の発行を認める制度の採用などは、非合法移民を多く抱える州や地方政府が導入したローカルな制度である。非合法移民の権利保護を宣言する「聖域都市」は、非合法移民を、「犯罪者」ではなく地域社会の一員として見なす。これらの都市や地域にとっては、国境管理や取締りへの動員を迫る移民政策は、長い期間をかけて築いてきた社会統合の制度的枠組を弱体化させるものである。実際、州や地方政府は、トランプ大統領の大統領命令が違憲であるとして執行差し止めを司法に次々と訴えている。一方で、トランプ政権の政策を歓迎する地域もある。たとえば、メキシコと国境を接するアリゾナ州やテキサス州は、以前から厳格な国境管理を連邦政府に求め、独自の取締りを行ってきた。テキサス州は、2017年5月に州内の都市が「聖域都市」を宣言することを禁止し、警察や法執行官に連邦の移民取締りへの協力を強制する州法を成立させた。

混乱や分断は世論調査にも現れる。実は、現在の米国の世論は、21世紀のなかで移民に対して最も寛容な態度を示している。移民が米国に「よい影響を与える」と考える人は、2015年に73%に達し(図1)、移民が米国を「強くする」と答えた人も、2016年に63%にのぼる(図2)。これらの数値は、いずれも2001年以降で最も高い。また、2017年の調査によれば、非合法移民に対する政策として「仕事を持っている非合法移民」を合法化させることを優先すべきという回答が全体の60%を占め、非合法移民の強制送還や入国禁止策を求める回答の数を大きく上回った(図3)。このように、トランプ政権の移民政策の方向性は世論調査が示す多数の志向と一致していない。一方で、共和党支持者のあいだの同政策への支持は根強く、移民問題をめぐる政治的分断は深まっている。

図1. U.S. Adults’ Assessments of Immigration’s Overall Impact on U.S.

出典: Gallup http://news.gallup.com/poll/194819/support-decreasing-immigration-holds-steady.aspx

図2. More say immigrants strengthen U.S. as the partisan divide grows

出典: Pew Research Center   http://www.people-press.org/2017/10/05/4-race-immigration-and-discrimination/4_9-3/

図3

出典: CNN-ORC Poll   http://i2.cdn.turner.com/cnn/2017/images/03/17/rel4g.-.immigration.pdf


「移民政策をとらない国」日本から考える

以上のように、トランプ政権1年目の移民政策は、実質的な移民統合を担う地域や世論との間の溝を深めながら、米国への移民の流れを抑制する結果をもたらした。このような移民政策のあり方を日本社会は、どのように眺めているだろうか。ピュー研究所による国際世論調査(2017年)によれば、日本では、米墨国境への壁の建設への「不支持」が78%、ムスリムが多数を占める国からの入国規制への「不支持」が65%を占め、トランプ政権の移民政策への評価は厳しい。ただし、同調査では、日本の回答者の57%が、「民族・人種・宗教などの多様性の促進」は国を「悪化させる」と回答しており、トランプ政権への不支持は、必ずしも日本における移民や多様性に対する寛容さに結びついているわけではない(図4、図5)。

図4. Trump’s policies on immigration, climate, trade widely unpopular in Japan

図5. Many Japanese feel diversity makes the country a worse place

出典: Pew Research Center    
http://assets.pewresearch.org/wp-content/uploads/sites/2/2017/10/04141151/Pew-Research-Center_Japan-Report_2017.10.17.pdf

もちろん、日本の現状は国際移民と無縁ではあり得ない。2012年以降、日本国内の在留外国人数は増え続け、2017年末には250万人に達すると見られる。なかでも、留学生や技能実習生の増加は著しく、その多くが実質的には「外国人労働者」として、製造業、建設業、農業、運送業、そしてコンビニエンスストアやファストフードなどのサービス業を支えている。また、2017年度内に東京23区で20歳となった「新成人」のうち8人に1人(とくに新宿区では45.8%)が外国人であったことも話題となり、外国人が「移民」として定着している現状にあらためて注目が集まった。しかし、安倍晋三首相は「移民政策をとらない」と公言しており、日本政府は、新たに増加した外国人の多くを、将来の帰国を前提とした一時的滞在者と位置づけている。そのため、在日外国人の権利保護や生活支援のための共通政策を欠き、その実施は、外国人が多く居住する自治体に委ねられている。「移民政策をとらない」という政府の立場も、実質的な「移民」を抱える地域社会の現実から大きく乖離している。少子高齢化のような状況も考えれば、政府は、「共生」を担ってきた地域の経験や取り組みから謙虚に学び、出入国管理や法的地位から教育・福祉などの統合政策まで、包括的な「移民政策」の枠組を構築することが急務である。

「移民の国」を自認してきた米国の移民政策が進む道は、移住者との共存をはかる国や地域にとって重要な指針となっている。しかし、現在のトランプ政権のように厳格な国境管理を求めるだけでは、移民政策と地域社会の取り組みのあいだの断絶はますます深まり、すでに多様な人口を抱える社会の基盤を不安定にする。地域社会が移民・外国人の統合をいかに担い、国がそこにいかなるヴィジョンと政策枠組を与えるのか。これは、米国だけでなく、日本を含む多くの国に求められる共通課題である。

 

【関連イベント】
Migration and anti-globalization in North America: Views from Mexico and Japan (USJI Week Event, March 2nd, 2017) 記録映像公開中

 


【執筆者略歴】
南川文里(ミナミカワ フミノリ)
立命館大学国際関係学部教授。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科単位取得退学。日本学術振興会特別研究員(PD)、神戸市外国語大学准教授を経て現職。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員(20132014年)。専門は、社会学・アメリカ研究。著書に『アメリカ多文化社会論:「多からなる一」の系譜と現在』(法律文化社, 2016年)、『「日系アメリカ人」の歴史社会学:エスニシティ、人種、ナショナリズム』(彩流社, 2007年)、共著に、Trans-pacific Japanese American Studies: Conversations on Race and Racializations (University of Hawai’i Press, 2016)など。

 


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