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USJI Voice

USJI Voice Vol.41

厳しい局面でも、戦略を堅持する中国の対外政策

2019.04.08
Rumi Aoyama
青山瑠妙
早稲田大学教授

厳しい局面に直面する習近平政権

国内の経済成長が鈍化するなか、米中貿易戦争が長期化し、中国は厳しい国際環境に直面している。「一帯一路」構想に参加し、返済能力を超えた債務を抱える国が出現し、中国の対外政策は「新帝国主義政策」、「略奪的経済政策」と批判されている。中国の経済は減速しており、現政権の政策運営に対しては国内からも批判が上がっている。2018年9月に、「中国・アフリカ協力論壇」が北京で開かれ、習近平国家主席はアフリカ諸国に対し新たに600億ドルの支援、2018年までのアフリカ貧困国の未払い債務の免除を約束した。一帯一路の枠組みにおける習近平政権の対アフリカ援助政策に関して、国内の貧困対策をまず優先すべきではないかという国内批判が上がるなど、言論空間に変化が現れている。

米中貿易戦争が引き金となり、共産党政権の安定を揺るがす可能性もある。こうした厳しい局面を中国政府も認識している。2019年3月5日に北京で開幕した第13期全国人民代表大会第2回会議で、李克強総理は「中国が長期間のなかで稀な国内外の複雑で厳しい環境に直面している」と語った。しかしながらもそれでも、習近平政権は引き続き一帯一路構想を推し進めている。

積極的な外交攻勢

貿易戦争が中国の政策を方向付ける効果は限定的のようである。2019年3月の第13期全人大第2回会議の開会に合わせて、『人民日報』は「中国制度の優位性」 と題する社説を掲載した。習近平国家主席は第19回党大会において、「発展途上国の近代化の道を切り開き、発展を加速させ独立性を保ちたい国家や民族に斬新な選択肢を提供した」と公言している中国が依然として「中国モデル」に固執しているのは明らかである。

直近の経済減速の圧力を緩和させるために、中国政府は「6つの安定」(雇用の安定、金融の安定、貿易の安定、外国投資の安定、投資の安定、予想の安定)を図りつつ、景気対策に力を入れている。対外政策に関しては、中国は戦略的一貫性を維持しつつ、下記の三つの側面において戦術的調整を行っている。

第一に、対米政策において中国は可能な限り譲歩し、安定化を図ることになる。政府活動報告では、アメリカを刺激するような政策、例えば「中国製造2025」に関する言及は意図的に避けた。また、米中貿易協議の一つの焦点とされている技術移転強制について中国の行政機関とその職員が行政手段を利用して技術移転を強制することを禁じた外商投資法案が制定されている。

第二に、中国はアメリカ以外の先進国との関係改善を急いでいる。日中関係については、急速に改善している。2018年4月に約8年ぶりに日中ハイレベル経済対話が開催されたのに続いて同年5月には同じく中国の首相として8年ぶりに李克強総理が訪日、同年10月には安倍首相が訪中した。2019年6月に大阪で開催されるG20首脳会議には習近平国家主席が訪日する予定であり、実現すれば国家主席としておよそ8年半ぶりの訪日となる。中国はEUとの関係安定をも図っている。2018年末に3度目のEUに関するポリシーペーパーが公表されたが、同ペーパーはEUによる地域統合の流れを支持し、EUと戦略的な対立は存在しないことを強調した。

第三に、先進国以外との関係強化に力を入れている。「中国・中・東欧(CEE)サミット」を通じて、バルカン半島の非EU加盟国(アルバニア、ボスニアヘルツェゴビナ、マケドニア、モンテネグロ及びセルビア)において中国の経済活動を強化している。ラテンアメリカは米国の裏庭と言われているが、近年中国はラテンアメリカ諸国に急接近している。ラテンアメリカは中国の対外投資先としてアジアに次ぐ2位として浮上している。さらに2018年に中国とアフリカの協力フォーラムが開催され、アフリカにおける中国のプレゼンスは広く拡張している。

米中関係が緊張化するなか、中国は静かにアジア周辺諸国との関係改善に取り組み、一定の成果を上げている。習近平体制のもとで、中国はアジア諸国との関係改善に動き出した。2017年夏ごろに、中国、インド、ブータンの3ヵ国の国境隣接地帯であるドクラム地区の中国人民解放軍による道路建設により中印両軍が2カ月にわたり対峙したが、2018年4月に行われたモディ首相と習近平国家主席との武漢会談は両国の関係は改善に向かい、国境地域における中印軍の戦略的ガイドライン作成、アフガニスタン経済支援に関する両国の協力、情報共有の協定など多岐にわたり合意した。

南シナ海問題において、中国の政策にも変化が表れている。対立している関係国に対して中国は「共同開発」のスローガンを再度提起し、協力を呼び掛けるようになったのである。2018年11月、中国はフィリピンとの間で海洋石油・天然ガスの共同開発の覚書などが調印された。南シナ海行動規範(COC)については、2017年8年に中国とASEANとの間ですでにCOCの枠組み案について合意し、2019年までにCOC文書作成の完了を目指している。

東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に関する協議も前進を遂げており、2018年11月,シンガポールで開催された第2回RCEP首脳会議の共同声明において2019年内に妥結する決意が示された。

この十数年でSCOはダイアログ・パートナーやオブザーバーを含めると、欧州やインド洋まで参加国は拡大している。中ロ関係の親密化が進むなか、中国の一帯一路構想とロシア主導のユーラシア経済同盟の連携がゆっくりではありながらも前進している。

ハイテク冷戦に向かうのか?

サイバー攻撃やハッキングなどの問題で、西側先進国を中心に中国に対する安全保障上の懸念が高まっている。次世代高速通信規格である5Gにおいて、中国を排除する動きはアメリカのみならず、アメリカと軍事機密を共有するファイブ・アイズの間で広がっている。ファイブ・アイズの動きに合わせて、日本政府も名指しこそ避けつつ、中央省庁などが使用する製品・サービスなどから中国のファーウェイとZTE製品を事実上排除する方針を固めた。この政府方針は民間企業の調達に適用するものではないとはいえ、日本の携帯4社(NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、楽天)は5Gの基地局などに中国製品を使わないと発表し、政府の方針に同調した。すでにファーウェイとZTEと提携関係にあるソフトバンクは、現行の4Gの通信網から中国製の通信機器の使用を取りやめ、抜本的な投資戦略の見直しを行うと公表した。

ハイテク分野における米中覇権争いの様相が深まっている。しかしながら、現段階においてファーウェイなどの中国企業の排除も西側先進国の政府調達分野に限られており、世界レベルのハイテク冷戦に発展する可能性は低い。

「米中ハイテク冷戦」が取りざたされる前から、中国は「一帯一路」構想のもとで5Gなど新技術を中心に関係国との協力を図っており、その影響力はすでにグローバルに浸透している。タイ、ラオス、マレーシア、インドネシアなど一部のアジア諸国は北斗測位システムを使用しており、 アフリカの4G通信ネットワークのうち70%はファーウェイによって作られており、アフリカ市場で圧倒的な優位性を有している。中東地域の大国であるアラブ首長連邦がファーウェイとの間で5G構築に関する契約を結んでおり、ラテンアメリカとカリブ地域でも、ファーウェイは重要なプレーヤーとなっている。

もちろんITシステム、5Gやクラウドサービスなどにかかわるハイテクは、軍民両用であるという特性を有していることから、ハイテク冷戦が今後他の分野に浸透し、グローバルに拡大する可能性も十分にありうる。しかしながら、先進国にとっては安全保障を優先した対中政策の経済コストは高く、発展途上国にとっては安全保障よりも5Gを利用して経済的キャッチアップする戦略に趣を置きがちである。ハイテク分野での中国の影響力が浸透し始めている今日、米中貿易戦争が中国の対外政策を方向付けることは難しいであろう。

 


【筆者略歴】

青山瑠妙(アオヤマ ルミ)

早稲田大学 大学院アジア太平洋研究科教授。法学博士。2005-2006年、スタンフォード大学客員研究員。2016-2017年、ジョージ・ワシントン大学客員研究員。専攻は現代中国外交。
著書には、『現代中国の外交』(慶應義塾大学出版会、2007年)、『中国のアジア外交』(東京大学出版会、2013年)、『外交と国際秩序(超大国・中国のゆくえ2)』(東京大学出版会、2015年)、『中国外交史』(東京大学出版会、2017年)などがあり、ほか論文多数。


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