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研究活動

USJI Voice

USJI Voice Vol.4

日本企業のコーポレート・ガバナンス

2015.01.09
久保 克行
早稲田大学 教授

 伝統的に、日本の大企業の行動はアメリカ企業とは異なっていると考えられてきた。その典型的な例が企業と株主、従業員の関係である。アメリカの企業が株主の利益を最大化するように行動することが望ましいと考えられているのに対して、日本では企業は従業員などの利害関係者の利益を重視して経営されるべきであるという考え方が強い。このような考え方は、アンケート調査などを通じて示されてきた。

 一方で、日本の大企業のこのような行動に対して多くの批判がなされるようになってきている。日本企業が諸外国の企業と比較して利益率が低いことが、批判される大きな理由の一つである。日本企業の利益率を諸外国と比較した研究の多くが、日本企業の利益率が低いことを指摘している。日本企業の利益率を分析した研究は、日本企業の利益率が低いことだけではなく、利益率の分散が低いこともあわせて示している。日本では利益率の分散が小さいということは、業績がとてもいい企業やとても悪い企業が日本では少ないということを示している。一方でアメリカのように利益率の分散が大きいということは、業績がとてもいい企業がある一方で、とても悪い企業も多いということである。

 日本企業の利益率が低く、また分散が小さいことは重要な意味を持つと考えられる。分散が大きいというのは、リスクの高いプロジェクト、すなわち成功したときのリターンは大きいが失敗する可能性が高いプロジェクトに対する投資が多いということであろう。一口にハイリスク・ハイリターンというように、一般にリスクの低いプロジェクトに対する投資プロジェクトのリターンは低い傾向にある。日本企業の利益率が低く、かつ利益率の分散が小さいということは、言い換えると日本の企業が諸外国と比較してリスクの高いプロジェクトに投資しない傾向にあるという考え方と整合的である。そもそも証券市場とは有限責任制度を通じてリスクの高いプロジェクトを実行させるためにあることを考えると、このことは必ずしも望ましいことではない。

 日本の大企業がリスクをとらない傾向にあるとすると、その背景には株主よりも従業員を重視する経営にあるのではないかと考えることができる。従業員にとって、企業が高い成長を求めリスクをとることよりも、大失敗をしないことの方が望ましいからである。たとえば、利益率が低い事業であっても撤退しないことで雇用を生み出すことができる。

 日本企業に対する批判が大きくなる一方で、企業をめぐるさまざまな制度変化がなされてきた。独占禁止法が改正されたことで純粋持株会社を設立することが可能となった。このことにより、企業は合併、買収、事業売却、事業の子会社化などの組織再編を行いやすくなった。金融商品取引法や会社法の施行なども、資本市場における合併や買収を促進する方向に働いている。

 これらの制度変化は、資本市場の機能を強化するために導入されたと考えることができる。企業の合併や買収を促進することは株主の力を強化する方向に働くであろう。そこで、企業のコーポレート・ガバナンスがどのように変化してきたかについてデータをもちいて検証することにしよう。コーポレート・ガバナンスにはさまざまな側面が存在するが、ここでは取締役会、特に社外取締役と経営者の金銭的インセンティブの二つの側面に注目しよう。

 そもそもコーポレート・ガバナンスが問題となる背景には経営者と株主の潜在的な利害対立がある。株主は経営者に経営を委任しているが、経営者が常に株主のために経営するとは限らない。そこで、株主は経営者に対する監視を強化するか、もしくは経営者が株主価値を最大化するインセンティブを付与することでこの問題を緩和しようとする。

 ここではまず、監視メカニズムとして社外取締役の状況を見てみよう。表1は、2005年と2013年の社外取締役の人数を示したものである。この表は上場企業全体が対象であり、データは日経コーポレート・ガバナンス評価システム(NEEDS-CGES)から得られたものである。この表から、2005年には、社外取締役が一人もいない企業が2,577 社あったのに対して、2013年には1,623 社と減少している。すなわち、社外取締役が増大していることが分かる。このことは、株主の利害をある程度反映させやすくなっていることを示していると考えることができる。一方、2013年においても多くの企業で社外取締役がいないこと、社外取締役がいる企業でも1、2人と非常に少ないことを考えると、社外取締役による監視に限界があることも考えられる。実際、日本の社外取締役比率は諸外国と比較すると2013 年時点でも非常に低いものである。

 次に、経営者の金銭的インセンティブについて考えてみよう。経営者の報酬と株主利益の関係が強化されると、経営者は株主利益が最大化されるように企業を経営するインセンティブを持つことになる。このため、経営者の報酬と株主報酬の関係を分析することで、経営者のインセンティブを知ることができる。

 これに関して私が以前行った研究を紹介しよう。この研究では日経225株式指数に含まれる企業を対象に、経営者の報酬と株主価値の関係を実証的に分析した。そこではTSR (Total shareholder return)が1.9%の企業と20.8%の企業を比較すると、社長の収入が典型的には約2000万円異なるという結果が得られている。一方、アメリカの研究によると同様の業績格差に対する報酬格差は約4億円となっている。言い換えると同程度の業績改善を達成した場合、アメリカのCEO の収入は約4億円増加するのに対して日本では約2000万円向上するということになる。ここから、アメリカの経営者は株主価値を最大化するための金銭的インセンティブを持っているのに対して日本の経営者はそのようなインセンティブが小さいことが分かる。

 この二つをまとめると社外取締役に関してはある程度変化が見られるものの、諸外国に比べると非常に少ない状況が続いていること、経営者が株主価値を最大化させるような金銭的インセンティブが小さいことがわかる。これらのことは、日本企業の行動は近年それほど変化している訳ではない、という考え方と整合的である。

表 社外取締役の人数

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 13
2005 2,577 626 320 136 45 25 18 9 3 1 0 1
2013 1,623 1,051 503 202 83 42 14 3 5 0 1 0

出処 日経コーポレート・ガバナンス評価システム

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