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研究活動

USJI Voice

USJI Voice Vol.7

国際災害協力における多国間協力

2015.04.28
林 春男
京都大学 教授

開発に内在する災害リスク

 平成27年3月14日から18日まで仙台市で、第3 回国連防災世界会議が開催された。20カ国以上の首脳が世界から集まる国連総会と同格の会議となり。今後15年間の世界の防災のあり方を規定した“Sendai Framework for Disaster Risk Reduction(仙台防災枠組み)”が採択された(*1)。1990年に始まった国連の「国際防災の10年」以来、国連防災におけるわが国の貢献は大きく、第1回会議は平成6年に横浜市で、第2回は平成17年に神戸市でと、すべてわが国で開催されている。

 この間、自然科学・工学分野だけでなく、社会科学の分野でも防災研究が熱心に推進されてきた。その結果、この20年間人的被害は幾分減少傾向にあるものの、先進国、発展途上国の双方で、災害による被害額や社会機能の喪失機会の増加は依然として止まらない。さらに巨大な自然災害が一度発生すると、直接被害だけでなく、水、食料、エネルギーなどの安全保障も損なわれ、健康、生命、生態系の危機に直面する場合もある。クローバル化した経済・社会活動は、局所的な危機を世界の持続的な発展への脅威としている。

 こうした背景には、人間由来の活動の拡大が防災努力を上回るスピードで展開し、ハザードの影響を増幅させていることがある。各国地域では「持続的な発展」を目指して活発な経済活動がなされている。一方で、開発行為は、無秩序な都市開発、環境破壊、貧困と経済的不平等の拡大、そしてそれらを許す弱いガバナンスも顕在化させている。その結果、持続的発展を損なう副作用として、災害、気候変動、金融危機が発生する。つまり、災害は開発に内在するリスクのひとつとして捉えられるのである。この考え方が仙台防災枠組みの基本である。

災害マネジメントサイクル

 災害について考える際の基本的な枠組みとして「災害マネジメントサイクル」がある。そこには、被害抑止(Mitigation, Prevention)、被害軽減(Preparedness)、応急対応(Response)、復興(Recovery)という4段階が想定されている。被害抑止と被害軽減は平時の取り組みである。前者は被害の発生予防を目的とし、後者は発生した被害を最小限にとどめ、速やかな回復を可能にするための備えである。消防における、防火の備えと消火の備えと考えるとわかりやすい。応急対応と復興は災害発生後にとられる対応を時系列的に見たものである。「災害マネジメントサイクル」という所以は、応急対応、復旧・復興の過程を通して得られた教訓が、将来の災害に備えた被害抑止と被害軽減の対策に反映されるからである。

 災害を開発に内在するリスクがもたらす副作用とみるとき、災害マネジメントサイクルにしたがうと、3種類の活動が必要となることがわかる。第1は、将来のリスクに対する予防である。第2は現存するリスクの低減である。そして第3が実際に発生した災害からの回復力の向上である。将来のリスクに対する予防でとりわけ大切なのは、IPCC5で疑いようのない事実とされた気候変動が将来もたらす気温上昇や海面上昇の影響に対して今から備えることである。第2の既存のリスクの低減では、これまでハード中心に進められてきた防災対策を、ソフト対策も充実させて「多重防御」体勢を構築することである。第3の災害からの回復力向上では、関係組織間の協力連携を可能にする災害対応の標準化の推進である。

東日本大震災の際の国際災害協力

 国際災害協力は、災害マネジメントサイクルのどの段階でも行うことが可能であり、かつ望ましい。しかし、国際災害協力がもっとも着目されるのは災害発生直後の応急対応期に行われる支援である。この段階での支援は通常人的資源の派遣、物資の提供、そして寄付金の提供の3つに大別される。わが国はこれまでにも自然災害で被災した世界のさまざまな国や地域に災害協力を行ってきた有力な支援国の一つである。しかし平成13年に発生した東日本大震災では活発な災害国際協力の受援国となった。ここでは東日本大震災の直後にわが国が受けた国際災害協力についてその概要を見てみよう。

 外務省によれば合計163か国・地域及び43国際機関から支援の申し出をわが国は受けている(*2)。人的資源の派遣に関しては、24の国と地域から行方不明者捜索救助のための緊急援助隊、医療支援チーム及び復旧支援チームが派遣された。また、国際機関としては、国連災害評価調整(UNDAC)チーム、国連人道問題調整部(UNOCHA)、国連食糧農業機関(FAO)・国際原子力機関(IAEA)専門家チーム及び国連世界食糧計画(WFP)による活動を受け入れている。その中でも、20,000名以上の人員、艦船約20隻、航空機約160機が投入され、「トモダチ作戦」と命名された在日米軍による大規模な活動がとくに注目されている。

 救援物資の提供に関しては、64の国・地域・国際機関からはさまざまな物資支援を受けている。内容的には、毛布、食料・水、燃料など、3月の東北地方で被災した応急対応期の生活や活動にとって基本となる物資・燃料の提供を受けている。もっとも規模の大きな支援を提供した米国について救援物資の内容を見てみると、USAID(米国国際開発庁)から緊急物資(寝袋、簡易ベッド、石油ストーブ、灯油等)、放射線防護服1万着。米軍から食料品約280トン並びに水770万リットル、燃料約4.5万リットルを配布(貨物約3100トンの輸送)、消防車2台、ポンプ5機、核・生物・化学兵器対処用防護服99セット、ホウ素約9トン、大型放水用ポンプ1式、バージ船に積載した淡水(2隻分)、バージ船2 隻、ゲルマニウム半導体検出器3台。米国防総省より放射線線量計31,000枚。イリノイ州より個人線量計2,000個他、となっており、さまざまな組織から救援物資が提供されていることがわかる。福島第一原子力発電所の事故を受けて、放射能汚染対応関係の物資が含まれていることが通常の救援物資と異なる点である。興味深い救援物資として、イタリアからのパスタ10万トン、バーレーンからサッカーボール123個とお国柄を反映するものを提供されている。

 寄付金については、95の国・地域・国際機関からは総額で175億円を超える寄付が寄せられている。

 東日本大震災の際に提供されたこうした支援は基本的に支援側と受援側の2国間、いわゆる”bi-“の関係で成立している。ということは支援を効果的にするためには、受援側に高い調整能力が求められるが示唆される。さまざまな支援の申し出を、被災地の持つニーズに対して、ヌケモレオチなく、かつ重複させずに、適切なタイミングでマッチングさせるためには、被災地の状況についての全体像をリアルタイムで正確に把握していることが前提となる。わが国では外務省が国際災害協力の窓口を担っている。外務省はさまざまな支援の申し出をとりまとめることはできるが、被災地のニーズを把握する能力を有していないはずである。むしろ、それは政府の災害対策本部が提供すべき情報である。このことを一般化していえば、国際社会がどれだけの支援を提供するかも重要だが、それ以上に受援側の関連機関が連携して状況認識を統一する情報処理の仕掛けを有するか否かが、効果的な国際災害協力の実現を左右する重要な要因であることを示唆している。

効果的な国際災害協力を推進する仕掛け

 受援側の関係機関の調整能力が国際協力を効果的なものという認識の下、国際社会は国連の下でさまざまな工夫を行ってきた。ここではINSARAGとCluster Approachの2つの例を紹介したい。INSARAGはもっとも時間的な緊急度が高い行方不明者捜索救助に関する国際協力の枠組みである。都市部で発生する地震災害では多くの人が倒壊した建物に閉じ込められる事態が発生し、発災後72時間が生存救出の限界だと言われている。この間にどれだけ多くの専門的な技能を有する救助チーム(Urban Search and Rescue Team:USAR)を被災地に投入できるかが救助の成否を決めることになる。そのため救助技術の向上と連携の充実のために80カ国が参加する組織としてINSARAG(International Search and Rescue Advisory Group)が2002年に国連総会決議57/150に基づいて設けられている(*3)。

 救命救助の次の段階は生存者への救援である。この分野も国連人道問題調整事務所(Office for the Coordination of Humanitarian Affairs:OCHA)を中心にして効果的な人道支援の実施のための調整機能が整備されている。とくに20万人以上の犠牲者を出した2004年インド洋津波災害後に、政府(中央・地方)、国連機関、赤十字、国際/国内NGO、ボランティア、軍事組織、民間企業、メディア、そして被災者を含む一般市民等多くのアクターが人道支援を行ったものの、十分な調整ができなかった教訓を踏まえ、人道支援改革に取り組んできた。そして国連人道機関とNGO からなる人道カントリーチーム(Humanitarian Country Team)という枠組みが国レベルで設置し、当該国で活動する国連機関のうち最もシニアな国連職員である人道調整官が人道カントリーチームを指導し、クラスターアプローチと呼ばれる、下の図に示す専門分野毎にニーズ調査、優先順位付け、対応計画作成等を各クラスターのリード機関が中心となって取りまとめ、その責任を明確にするとともに、支援の届かないギャップや重複を避けることを目的としている(*4)。

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おわりに

 災害発生直後の応急期での国際災害協力について、国連を中心とする応急対応期の調整の試みを見てきた。災害に関する国際協力はたんに応急対応期にとどまるべきではない。その後の長期的な復旧・復興過程においても、また平時の被害抑止や被害軽減の備えにおいても、国際協力はさらに進展させるべきである。阪神淡路大震災、東日本大震災に共通する災害の教訓は「災害時には普段やっていることしかできない」である。この点を踏まえると、効果的な災害マネジメントサイクルを多国間協力で実現するためには、UNやAPEC、あるいはASEAN 等の既存の国際協力の枠組みを活用しつつ、防災に関する国際協力の枠組みづくりが必要であるといえるのではないだろうか。

<参考文献>
*1 http://www.wcdrr.org/uploads/Sendai_Framework_for_Disaster_Risk_Reduction_2015-2030.pdf
*2 http://www.mofa.go.jp/mofaj/saigai/shien.html
*3 http://www.insarag.org/
*4 http://www.unocha.org/japan/about-us/about-ocha/international-humanitarian-system

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